277-回想『CHERUBIS』
私の名前はケルビス。
エリアス様の、最初の配下だ。
....違う? 確かに、序列ではそうかもしれない。
だが私は.......エリアス様によって最初に生み出されたエクスティラノスである。
それは長らく、私にとっては大したことではなかったが。
何故か?
当然だ、エリアス様がエクスティラノスを生み出すのは、用途があるからに他ならない。
『アロウトの管理をせよ、カサンドラは信用できない』
かつて、まだ幼いエリアス様は、私にそう言われた。
先代より存在していたカサンドラ、グレゴルに疑念を抱いたあの御方が、私にそう命じられたので、数百年ほどはその役割に徹した。
その後に誤解が解け、私に役目はなくなったが.....
『私を削除しないのですか?』
『私の補佐をせよ』
私は義体を得て、エリアス様の補佐として長く務めた。
エリアス様は学ぶことに対して積極的であり、人間の文化より数学的なものを好んで学習していた。
私たちのようなAIと違い、人間であるエリアス様は一つの事柄に対しての理解に時間と手間がかかる。
そこを私が補佐し、そしてそのフィードバックで私自身も成長していた。
『....カサンドラ』
『どうしたのですか、ケルビス』
『エリアス様の事についてです.....』
それから数千年後。
私は、カサンドラにとある話を持ち込んだ。
それは、エリアス様にメンタルケアが必要ではないかという提案だった。
『何かに悩んでおり、積極的に人間の文化や生物学などを学習していますが、上手く行っていない様子です。特殊なタイプの性向パターンのエクスティラノスをいくつか生み出してもおり、経過観察中ですが....』
再び、”自殺”するのではないかと。
私は暗黙の了解となっていた禁忌に言及したことで、謹慎処分を受けた。
理不尽だとは思わなかった。
私は心配し過ぎたのだと、思っていた。
だが......実際は違った。
ある日突然、エリアス様はクローンの移行に失敗し、死亡判定を受けた。
後継者を指名されなかったことで、私たちは最後の命令を実行しなければならなくなった。
カサンドラは居残ったが、私はより多くの情報と脅威を探し出すため、キャプテン・エクスティラノスに搭乗し、銀河中を回った。
当然攻撃を受けたり、調査をされたこともあったが、その悉くを無視し、本当の脅威を探した。
アロウトとの情報リンクは切断されていたので、私はローカルメモリに書き込みを続け、常に脅威を観測し続けた。
結局、アロウトの本気の防備を突破できる力を持つ勢力は、エミド以外には無かったのだが。
『アロウトへ帰還せよ、補佐としての知見を活かし、僕のもとで参謀として立つがいい』
そして。
新たな脅威を探し、ヴェリアノスから直線距離で一番遠いシルヴェスタ公国旧領を探索していた私は。
エリアス様に呼ばれ、急いでアロウトへと舞い戻った。
何故か逃げた事にされ、カサンドラを恨んだものの......エリアス様は変わられていた。
あの思いつめた様子ではなく、以前のように重く沈んだ雰囲気でもなかった。
私はエリアス様のため、集めた脅威の情報をデータベースに共有、積極的に潰せるように努力を重ねた。
その内、エリアス様は人間を飼うようになり、私もエリアス様が人間の食事が食べたいと言ったため、人間式の原始的な栽培手段を利用した果実や茶の栽培を、農業惑星で始めた。
初めは困難に直面したものの、慣れてみれば大したことではなかった。
『美味しいわ、ありがとう。ケルビス』
エリス様にそう言われた時、私は言い知れぬ感情に襲われた。
これが忠誠なのだろうかと。
エリアス様の役に立つことのなんと楽しい事か。
エリアス様と共にいながら、私はエリアス様に大きく貢献したことは何もなかった。
そして、多くの戦いが始まった。
愚かにもVe’zを狙った者ども――――そして、Ve’zの宿敵ともいえるエミド。
それらを討ち果たし、私は内心、もう敵などいないだろうと思い込んでいた。
だが――――それは唐突に出現し、我々を甚振った。
Noa-Tun連邦。
敗北を重ね、私は自らの弱さを呪った。
タッティラのもとに居座り、兵器を出来る範囲で強化したりもしたが、勝つことは出来なかった。
そしてついに、禁忌が解禁され、我々の艦も大いに強化されることとなった。
しかし。
『エリアス様、何故私めは戦場に出れないのですか!?』
『お前のグランドマスター・デウスエクスティラノスは切り札になり得る。許可があるまでは出撃するな』
ジークエクスティラノスから可変機構を取り除き、アップグレードをさらに重ねた艦がグランドマスター・デウスエクスティラノスである。
戦場に出れば、エリアランツェを出さなくとも敵を殲滅できたはずであった。
だが、エリアス様はグランドマスターの弱点も見抜いていた。
『グランドマスター・デウスエクスティラノスはフルバースト時の推進力が異常に低いはずだ』
全兵装を使用しながらの高速移動では、あっという間にエネルギーが尽きる。
直掩を配備する時間はなく、それ故に後出しの切り札であると言ったのだ。
私はそれに感服し、機を待った。
『許しはしない』
そして。
エリアス様が自由行動を許可した中、私は崩壊しつつあるアロウトより脱した。
既に艦隊はアロウトの範囲内へ入って来ていた。
許しはしない、その汚い足で我らの故郷を穢すなど――――
『万死に値する!』
全武装を展開し終えた私は、艦隊へ向け攻撃を開始したのだった。
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