271-盟友たちと共に
それから数時間後。
僕は、余裕のなくなってきたエリアスの戦いを見ていた。
庭園は半壊、シンはケテルを持ち出し、カルは片腕を失っていた。
キネスでも流石に肉体の修復は出来ないと見える。
『こ....交代するべきではないか?』
『珍しいな、弱音を吐くようには見えなかったが』
『キネスを交えた戦闘は不得手だ.....』
彼女も、凄まじい戦いを見せた。
ケテルによる隙をカバーした一斉砲撃を躱しながら、本気になったカルの片腕を破壊したのだから。
戦闘でボロボロになった筈のケテルだが、あの巨大な外装とは動力源も別らしく、通常兵装は問題なく使用できていた。
既にケテルは右足を破壊され、左腕を損壊しているが、依然として脅威だ。
『!!』
そして、エリアスは現に追い詰められている。
彼女と繋がっている僕は、それが想定内であるとは理解していたが。
カルの放った稲妻を躱した彼女は、空中で消滅光に襲われる。
それを回避して、アロウトの外壁へと降り立った。
アロウトの外壁には、夥しい数の彫刻が彫られている。
これもかつてのアルティノスが、手で彫ったモノらしい。
そこを容赦なく蹴り砕き、彼女は駆ける。
ケテルから射出されたビットが、エリアスの進路を塞ぐように立ちはだかり、破壊しようとした瞬間、背後から稲妻が飛ぶ。
彼女がそれを避け、ビットの砲撃をターボ・シールドで弾く。
『介入する余地がないな』
『だが、有効な手立てが打てない』
『相手も人間である以上、疲弊するのを待てばいい』
『義体のデータを見ていないのか? 限界は近い』
確かに、義体のコンディションは最悪だ。
このまま戦い続ければ、どちらが先に動けなくなるかは明白でもある。
どうするか...?
僕が考えていた時、精神リンクに力強く声が掛かった。
『心配は要らぬ、吾輩らも戦わせてもらう故!』
『私達が付いています!』
その時。
アロウトのパージされ、崩壊しつつある格納庫から二機の機体が飛び出す。
エリアスの脳髄に、その機体のデータがインプットされているため、光学インプラントを通したフィルター越しでも、その機体が何であるかは即座に理解できた。
『ロイヤリティエクスティラノスか...!?』
『もう一つは、ラ・クムントだな』
格納庫に放置されていたが、精神リンク技術が扱えるなら確かに誰でも操縦できておかしくない。
もう一つは...そうか。
思い出した、アディナが元々乗っていた艦船だったか。
P.O.D以外の装備を全て取り外していたはずだが、放棄されて自在に操作できるようになっていた整備システムで勝手に増設したのか?
だが...どちらも戦闘能力は低い。
『二人とも、何故ここへ!』
『やはり見てはおれぬ、我らが遺産が悲しみを引き起こす様は! 故に、この場において吾輩は、するべきことをする!』
『私の船なら、多少はできることがあるはずです!』
無駄な努力。
エリアスなら、そう切って捨てたはずだ。
だが、これは僕の積み重ねの結果。
『交代だ』
『良かろう』
僕が主導権を握り、それと同時に二隻が砲撃を放つ。
ロイヤリティエクスティラノスはメイン動力が取り外されているから、内部駆動でもって30分という所か。
そう考えていた矢先、カルがロイヤリティエクスティラノスを無視して真っ直ぐこちらへ加速してくる。
『させぬぞ!』
『待て...まさか!?』
ロイヤリティエクスティラノスが、カルと僕の間に割り込む。
そして、その内包熱量が瞬間的に増大する。
エリガードが光と衝撃波を伴って自爆し、残骸の弾幕を周囲に飛び散らせる。
『ニト!?』
『吾輩は失礼する...エリアスのように操れる訳ではなかった...』
ロイヤリティエクスティラノスの脱出ポッドがどこかへ向けて飛び出していく。
それを追ってカルが飛び出していくが、僕はそれを位相置換で割り込む事で止めた。
力場で光の剣を受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。
よく見ると、カルの装備がボロボロになっていた。
纏っていたマントも、穴だらけになっている。
流石に、先程の爆発で無事とは行かなかったか。
『私を舐めないでください、私の名前はアディナ。エミド第二十一船団長である!』
そして、アディナもまた、持ち前の速度を生かして戦っている。
流石だな、あのマニューバは真似できるものではない。
僕たちが相手でなければ、悪くて善戦、良くて圧勝してきたのだろう。
『取った!』
直後、P.O.D.の光がケテルを袈裟斬りにする。
シールドや装甲を容易に切り裂かれ、切断面が何かに誘爆したのか、吹き飛ぶケテル。
これで、勝負は振り出しか。
『私はアドアステラ...アレを墜として来ます。...ついでにニト様の救助も...ご武運を』
『充分だ』
視界に映るフィルターに、小さな表示がいくつか現れる。
ニトの奴、意外な置き土産をくれたものだ。
『動け、ベネディクト!』
爆散したロイヤリティエクスティラノスに積まれていたベネディクトが僕の操作を受け付け、真横から僕らを襲撃した。
といっても、襲うのは僕ではない。
鍔迫り合いで押し込む形になり、僕が消えた事で勢い余ったカルだ。
ベネディクトによる射撃は、カルを直撃したかのように思えた。
『これも曲げるか...!』
やはり、ただのキネス使いではない。
だが、底は見えた。
彼女が放った雷がベネディクトを一掃するのと同時に、僕はケテルの残骸に目を向ける。
熱量はなし、完全に冷えている。
...ということは。
『やはりか!』
死角からの消滅光。
長い波長の消滅光は機材の補助が要るようだ、短い波長の...波動弾とも呼ぶべきか。
それを連続で放ち、僕の逃げ場を押さえ込む。
そこにカルが突っ込んできた。
凄いな...
『凄いな...』
『ああ』
『私にも、このように信頼し合える友がいれば...』
『もう居るだろう...僕が』
少し厚かましかったかな。
そう思いつつ、少しの余裕を取り戻した自分に驚きつつ。
僕は、切り返して逃げ始めた二人を目で追う。
消滅の力は現象も破壊できるらしいので、シンのキネス残量が少なくなり、酸素のある空間を維持できなくなったと見えるな。
庭園は完全に破壊されたが、酸素発生フィールドは生きている。
そこで戦うというのだろう。
『行くぞ』
『勿論』
僕とエリアスは、再び庭園に向けて飛び出した。
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