表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】SF世界に転生したら人類どころか人外で人類史の空白だった件~人間じゃないけど超優秀な配下を従えてます~  作者: 黴男
終章(3/3)-『決着』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

270/295

270-たった一つの夢

私はずっと、何かを追い求めていた。

それが何か、今ならよくわかる。

私は.........人間らしさを、人とVe‘zの違いを探し求めていたのだ。

そこに、自らを縛る柵からの救いがあると信じて。


『永遠に続く幸福』


それこそが、私の命題。

願いを成せず、死んで行った多くのVe’z人の為、私は教育措置を終えてからすぐに研究に取り掛かった。

けれど、すぐに壁にぶつかる事になった。

Ve‘zは進化の壁に当たっており、私に出来ることは殆どなかったのだ。

それでも、諦めることは私の人生を無意味にすることだと、私は妄執に取り憑かれた。


『メッティーラ、楽しいのか?』


そんな無意味な問いを、まだ幼かった私は人工知能に尋ねた。

私の父親が生み出した、アロウト防衛用のエクスティラノス。

無意味で無価値な積み重ねに、人工知能は何を見出すのだろう?

私は、それが不思議でたまらなかった。

繰り返しに疑問を持つのは、決まって人間だけ。

アルティノスである私もまた、それから逃れることはできなかった。

それより以前、グレゴルに同じように尋ねたことを思い出す。


『楽しいか、ですか?』

『そうだ』

『無意味な問いです、エクスティラノスには定められた規律があり、楽譜の通りに楽器を弾くように、それを外れる事に大して異常だとは思いません』


エクスティラノス達は、引かれたレールの上を何度でも、何度でも走る事が出来る。

だが、それでは駄目なのだ。

それは停滞と思考停止である。

私が求めているのは、充足感と........そう、考えた時に気付いた。

幸福とはなんだ、と。

生物の欲求がすべて満たされている状態、それが幸福なのか? と。

であれば、日常の僅かな満足の中にあるこの温かさは何なのだ?

だが、答えを聞こうにも......その答えを知っているものは、アロウトには居ない。

外には人間がいるが、このような高度な問いに答えられるとも思えなかった。


『人間を知らなければ』


私では無理だが、エクスティラノス達に任せればよい事だ。

最初はケイトリンを創り、試した。

しかし、あまり成果は上がらなかった。

ヒトを統率するという王について学習させれば、ヒトが望む幸せというモノが自然と見えてくると思えたのだが......上手く行かなかった。

厳格に定められたルールは儀式的なものであり、前提である文化を完全に理解する必要があったものの、その中には私には理解に苦しむものがいくつかあり、ただ困惑して終わるだけであった。

次に、私は人間の中にある道化の存在に目を付けた。

滑稽であろうとするには、人間の感情についての秘密が眠っているはずだと。

だが.....期待外れだった。

人格を模倣しただけでは、期待通りの成果は得られなかった。

私は次に移らざるを得ず、今度はナルに研究を託すことにした。


『人を従えるための術を模索せよ』


ならば、私が国家を創り、ナルに従えさせればいいではないか。

人間は動物を飼育すると聞いたが、無論違う種類の生物を飼育するのには、容積の小さい頭脳しか持たない人類には困難なことだったはずだ。

長く寄り添い、その特徴から学んでいく。

そうするはずだったのだが.......

ナルは失敗した。

人間共は蜂起し、仕方なく惑星を焼いた。

数十代前の管理者のお気に入りの惑星だったそうだが、今では責任を問うのも詮無い事だ。


『どうすればいい......?』


考えに考えた。

一度座って考えれば、一瞬のうちに数十年が過ぎ去った。

幾度も思考を巡らせた。

けれど。

けれど。


『分からない.....』


人間とはなんだ?

生命とは?

幸福とは?

何故、永遠の幸福はVe’z人類を死に追いやったのか?

私では、到底理解できない事だった。

そして、ある日。


『もう、終わるべきか』


私はついに、大量死の原因を理解した。

それは諦めだった。

解決プロセスを導き出せないスクリプトが停止するように、私は諦めたのだ。

そして、クローンの意識転送システムをわざと書き換え、永遠に続く回生を断ち切った。







不思議な事が起きた。

私は永久に続く眠りに入ったつもりだったが、私の身体に別の誰かが入り、動き始めたのだ。

最初は、情けない人間だと思った。

アロウトに踏み入る事すら許されないような、世界の全てを非効率に運用する人間。

だが、彼が来てから.....全てが変わった。

設定された人格をなぞるだけだったエクスティラノス達が、感情豊かに動き、語り、そして主の意を超えた行動までとり始めた。

それはまるで......”人間”のようだった。

アラタと共に在ったことで、私も人間について学ぶことが出来た。


『アラタ、君はなぜ――――幸せなのか?』


ある日、私は愚かな質問をした。

それが愚かだと、言ってから気付いた。

そして、そう思ったことに驚いた。

だが、アラタは真面目に答えた。


『何もかもが満たされている。だが.....人間はそれだけではだめだ。一人で完結できる人間は、結局存在しないんだろう。家族、友人.....時には敵だって良い。自分の価値観と違う、対話できる存在がいる事。それが幸せの前提だと、僕は思う』

『理解不能だ、対話であればエクスティラノスとも可能だ』

『彼らは人間ではない』

『人間のようであれば、充分だろう』

『人間には、人間にしかない温かさがあると.....少なくとも僕は思う』


とんとん拍子に、事が進んでいく。

アロウトに滞在する人間は少しずつ増え、外部との交流も僅かながら始まった。

ケルビスが、茶や果実を栽培し始めたことに、僕は驚きを隠せなかった。

アラタを通じて伝わってくる、知らない感覚。

味や風味、香り。

同じだと思っていたものが、実は全く違うのだ。

効率だけを重視して、毎日摂っていたエネルギーブロックが、今では非常食以下の存在になっていた。

これが.......人間。


『分かった』


ようやく。

ようやく理解した。

感情。

感覚。

嗅覚。

味覚。

触覚。

聴覚。

哲学。

そして.......交友。

私たちが、不要と判断して切り捨ててきたものの全てが、幸福そのものだったのだ。

ある時一度、本物の痛覚を体感してみたこともあった。

その時、私はある考えに至った。

青白く光る体液が流れ出すのを見て、私は初めて願いを抱いた。


『人として生きる』


それは、かつて両親が選んだ選択。

人の寿命で、限られた時間を、限られた幸福を享受したい。

無論、幸福だけではない。

そこには悲しみ、悔しさ、悩み、苦しみがあるはずだ。

だが、それが人間の生きる時間なのだ。

その全てを受け入れて、私は生きたい。

意識が消え、どこにも保存されない『死』を。

味わいたい、と。


↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ