269-ラストシューティング
交代した直後、エリアスは空間転移でカルの背後を取る。
即応し距離を取ろうとしたカルに追いすがり、急所を狙って拳を放つエリアス。
だが、カルはキネスで自分を吹き飛ばし、エリアスの周囲の時間を停止させて追撃を防ぐ。
『無駄だ』
時間加速を使って停止フィールドを振り切ったエリアスは、カルに迫る。
「させるか!」
『だから、無駄と』
カルの前にシンが立ちはだかるが、エリアスは位相置換でシンとカルの位置を入れ替える。
そして、カルに向けて拳を放った。
「仕方ない.....ッ!」
『!』
エリアスは何かに気付き、拳を握ったまま退く。
同時にカルの纏っていた装甲が、白く輝き始めた。
リヴァイアサンの装甲と同質のものだ。
「俺も!」
「お兄ちゃん、待って!」
カルが制止するが、間に合わない。
放たれたキネスの共鳴波が、ビットに作用して白く染めた。
エネルギーにより多く耐えられるようになり、出力と速度が増加するのだが.....
『ビット兵器? 無効化すればいい話だけの話だ』
直後に機能を停止し、地面へと落下する。
そして、エリアスが一瞥すると同時に、シンが滅茶苦茶な方向に飛び出した。
推進に使用している重力推進を乗っ取ったのだ。
『脆弱なセキュリティだな』
「お兄ちゃん! あれ、オクティアンのパラライシスリンクと同じやつだよ!」
『パラライシスリンク.....? 旧型の装備ですね』
シンは重力推進板を畳み、地上に降り立つ。
それを狙い、背後にエリアスが転移。
彼はエリアスの蹴撃を、消滅シールドの展開で防御する。
片足の先がなくなったエリアスは、即座にそれを修復した。
『綺麗な断面だ、医者になった方がいいのではないか?』
「生憎、自分の出世には興味が無いからな」
『そうか』
では死んでいいぞ。
そう言わんばかりの触手による連撃が、シンを襲う。
だが、シンもただやられるばかりではない。
消滅の光を纏った片手で空間を裂き、「距離」を消滅させて瞬間移動する。
先ほどからの不可解な移動はこれである。
そして、シンの逃げる先にカルが割り込み、斬撃を放とうとする。
『剣士の力の重心は、足場にある――――簡単なことだろう?』
「な........えっ!?」
だが。
その斬撃は外れる。
触手が、カルの足元を崩したからだ。
素早く離脱するカルだが、それを超える速度でエリアスが接近する。
互いの顔が、触れあうほどの距離で。
二人は会話を交わし合う。
『兄に疑念を抱いているのに、どうして指摘しないのだ?』
「....関係ないでしょ」
『私は君の兄なんだろう?』
「今は違う!」
歪んだ少年と、未熟な妹。
何千年も生きたエリアスに、二人はそうとしか映らなかった。
自己解決の手段を持たない愚かな人間。
『今は違う? ならかつてはそうだったのか?』
「.......お前はもう黙れ!」
直後、カルを巻き込む形で消滅光が飛ぶ。
エリアスはカルを光に向けて突き放し、自分は地面に降り立って数歩下がった。
『妹を巻き込んでしまってよいのか? ああ、奴隷のように妹を使役するお前には、理解できない事か』
「使役? 違う、俺が使役されているんだ」
「違う! 私はお兄ちゃんに従うもん!」
意地の張り合い。
だが、ここが突破点だとエリアスは考えていた。
この兄妹は、自分たちの事になると途端にムキになる事を察知したのだ。
『お前は何も気づいていない』
エリアスは一瞬でシンの背後に回り込み、その耳に囁いた。
直後、反転して斬撃を放つシンの一撃を、余裕綽々といった風に躱したエリアスは、シンに向かって言い放つ。
『お前の妹は、兄妹愛等持ってはいない。あるのは独占的な愛と性的な欲求だけだ』
「戯言を!」
近距離で、レーザーブレードの斬撃が放たれた。
それを力場で受け止めようとしたエリアスは、何かを察したように触手を下がらせるが、そのうちの一本の先端が切断された。
『場所を変えるか』
直後。
玉座の間の壁面と天井が崩壊し、完全に開けた空間となる。
そして、それを見越したエリアスは、シンを捕らえてアロウトの外周部まで突き進む。
キネスによる呼吸エリアから脱すれば死ぬと分かっているからだ。
だが、シンは苦しむ様子を見せない。
「悪いな、空気エリアは俺の...自作だ!」
シンとエリアスの間に、消滅の球体が発生して膨れ上がる。
エリアスがそれを回避するために触手を引き戻すと、シンは重力翼を開いて「庭園」の方へ墜ちて行く。
それを追うエリアスは、背後に迫るカルに一瞬反応が遅れた。
キネスで自分を掴んで無理やり移動していたのだ。
『これは!?』
アラタが対応していた、キネスの生む理論の特異点。
それを見過ごしたのだ。
だが、対処不可能な事象ではない。
......最大のイレギュラーが発生するまでは、そうだった。
「今!」
観測していない空間で、急速に熱量が膨れ上がる。
そして、エリアスの脳裏を警告が埋め尽くした。
『ぐうううっ!?』
死角から飛んできた弾丸が、エリアスの腹部を抉り取ったのちに爆発した。
エリアスが怯んだ隙に、カルが触手数本を一刀のもとに切り捨てた。
『何が...!?』
エリアスは何が起きたか理解できなかった。
だが、当然のことである。
これは、密約だったのだから。
戦いが始まる前、カルはシトリン...『リーンカーネイション』に載るアンドロイドと、もし機体が破壊されても援護して欲しいと...約束していたのだ。
命令に従い、シトリンは機体と自分そのものを支柱にし、搭載したレールキャノンでエリアスを超精密射撃で撃ち抜いた。
油断と慢心、アロウトの全てを掌握していた自信から来る、エリアスの隙を突いた一撃であった。
『任務...完了...』
『これが油断というものか』
修復不可能な損傷を受け、触手を修復しながらエリアスは笑っていた。
それは、彼女の夢に一歩近づいたからに他ならない。
『いやはや、面白い』
音を通さない真空で高らかに笑いながら、エリアスは庭園へとテレポートするのであった。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




