268-強敵
「ビット!」
カルがエリアスに組みついた直後、既に展開されていた七機のビットに加え、シンが追加で七機のビットを展開する。
それで全てのようで、ケテルのビットと同じく手動操作のそれを、シンは糸を手繰るように操りカルを支援する。
『くっ....』
カルの使う光の剣は、状態で性質が変化するようであった。
光が曖昧になれば、それは大振りの刃に。
光が収束すれば、剣の腹の如く硬く。
光が強くなれば、通常のレーザーソードのように物体を切断する。
カルはそれを二本持っており、キネスと織り交ぜてそれを巧みに扱う。
数少ない逃げ場を、ビットが射撃で妨害する。
『だが!』
「あっ!!」
縦横無尽に駆け回る触手が、カルの手から光の剣を叩き落とす。
そして、カルとエリアスの間の射線が開く。
カルが懐から一挺の銃を取り出すのと同時に、エリアスの目が輝く。
レーザーがカルを撃ち抜く前に、消滅のキネスでワープしたシンが割り込んだ。
「そんなガラクタで、敵う訳がないだろう!」
「う、うん....お兄ちゃん」
シンの右腕から、消滅光をシールドに転用した盾が展開され、エリアスのレーザーを消滅させて防ぐ。
そして、両手にレーザーブレードを構えたシンは、一気にエリアスに肉薄する。
『単身で突っ込むか』
「いいや? 計算づくだよ」
ビットが一斉に集合し、シンを襲う触手を展開したシールドで防ぐ。
カルのシールドジェネレーターから複製したものであり、強度もそれなりである。
ならばとエリアスが徒手空拳で応じようとした瞬間、シンが急速に離脱。
その背に隠れて見えなかったカルが、再び鍔迫り合いに持ち込む。
『なるほど.....』
仲が悪いように見えたが、侮っていた。
そうエリアスは判断する。
前世で血だけ繋がっていた自分とシンとは違う。
血だけではない繋がり。
絆を感じたのだ。
「はぁあああああああッ!!!」
『なにッ!?』
完璧に捌き切った。
そうエリアスが思った時、バックパックのスラスターで加速したカルが一歩踏み込んできた。
即座に回避に移るものの、右腕を斬り飛ばされてしまう。
「(やった!)」
「流歌! 前を見ろ!」
「えっ!?」
だが、カルもまた人間である。
最大の攻撃が決まった時に、油断を挟む。
エリアスが放った蹴りを、兄の叫びで気付いたカルは、その蹴りを片手で受け流す。
勢い余ることなく、エリアスは運動エネルギーを使い果たし、跳躍、回転して退く。
そして。
視界に外れるように移動していたシンが、エリアスの背後を狙って攻撃を放つ。
『奇襲とは、強い者だけが正当化できる行為だ――――弱者が強者と戦う時には便利なものだが』
「ちっ!」
だが、レーザーブレードは、力場を纏った触手によって弾き飛ばされ、シンは武器を一つ失う。
丁寧に、触手がレーザーブレードを破壊したからだ。
腰からスペアのレーザーブレードを抜き放ち、シンは一度後退する。
そして――――まるで狙ったかのように、ある一点で静止、再度加速して接近を試みる。
エリアスがそれに気づいたときには、既に反対側からカルが接近してきていた。
正反対の方向からの挟撃。
何でもないかのように、エリアスは触手で受け止めた。
激しい攻防の末――――負けたのは触手だった。
『何だと!?』
力場ごと、カルが触手を切り裂いたのだ。
ただ、シンの方は出力不足で力場を破れず、カルの攻撃が成功すると同時に納刀して退く。
『(守勢に徹するのは困難か)』
『だが、お前の実力では攻勢に出るのは難しい....そうだろう?』
エリアスの心の内で、もう一人のエリアスが呟く。
アラタの動きは、エリアスから見れば非効率の塊だ。
であるから――――交代しよう。
暗にそう提案しているのだ。
空間転移で玉座の入り口に転移したエリアスは、目を閉じる。
そして、再び開く。
瞳は真紅に輝き、その一瞬の煌めきに反応した二人が振り向いた。
『私のターンだな』
急接近してくる二人に対して、エリアスはそう呟いた。




