266-決別
『その後はどうだ』
僕は玉座から降り、見下しながら話す。
打算もある。
『散々だ』
『そうか、兄弟の誼で...ここは見逃して貰えないか?』
『おい、アラタ...何をする気だ?』
エリアスが脳内で語りかけるが、僕は話を続ける。
『...お前のお陰で、家庭は滅茶苦茶になったんだ』
『それは僕の責任ではない』
『母は宗教に嵌り、父はそれを静観した。...それで、今更兄弟を持ち出すだと?』
そんなことになっていたのか。
それほど、両親にとって僕の存在は大きかったのか?
『だいいち、兄だというのなら...もっと早く言えば良かったんじゃないか?』
『そうかもしれないな...』
『確信がなかった、済まないな。それで...何か隠しているな?』
僕は精神リンクによって、シンが何か嘘をついている事を察した。
それは両親のことを語る時にだ。
『ああ、父親を殺したことか?』
『そうか』
何のことでもないというふうに、シンは言った。
それを聞いて僕は怒り...はしなかった。
『お兄ちゃん...そ、それ...本当...?』
『仕方ないことだった。お前のためだったんだ』
『そ、そうなんだ』
向こうでも動揺が深いようだな。
僕は、意外とあの両親に情が薄いことに気づいた。
思えば、僕は何故...勉強をした?
何故、あんなふうに頑張れたんだ?
「これはあなたの為なのよ」
「〇〇大学に進めば、新卒で大企業に入れる」
「資格勉強をしなさい、お母さんがおすすめをリストアップしてあげるわ」
脳内に声が響く。
だが、この気持ちと向き合うのは...終わった後だ。
『まあ、策は上手くいったので...許してほしいな』
僕は顔を上げた。
そして、わざと伸ばしていた触手をゆっくりと戻す。
『何を...まさか!』
『ファイス!』
『安心してほしい、ファイスは無事だ』
彼は僕の奇襲に対して即反応し、迎撃した。
話で彼らの意識を誘導し、僕は奇襲を仕掛けた。
邪魔者を排除するために。
二人が振り向き、ラビとハディーマの死体が目に入ったらしい。
既に人の形をしていない。
生命力が未知数だったので、一瞬で引き裂いた。
『まさか、奇襲に対処するとは』
『奇襲など...戦士のすることではない! Ve‘zの首領よ!』
『そういえば名乗っていなかったな』
僕は、自分の名を語る。
『僕の名前はエリアス・アルティノス』
正義も悪も、卑怯も正当も、僕の前では単一化される。
何故なら...エリアスの前に立った者に、正当性など最初から無いのだから。
『貴様ッ!!』
直後、ファイスが高速でこちらへ突っ込んでくる。
僕は動かす、触手のみでファイスを壁に叩き付ける。
『があッ...!』
『宇宙服なしでは生きられないお前達が、どうやって僕に敵うというんだ?』
そう。
アロウトの玉座の間は真空である。
Ve‘z人は強化の結果、真空でも生きられるが...今生きている目の前の三人は、宇宙服が無くなれば自然の摂理に従って死ぬしか無いのだ。
『当然...』
『そんなモノ、要らないよね!』
直後。
シンとカルが、宇宙服を脱ぎ捨てた。
ファイスもまた、触手を強引に引き剥がし、宇宙服を捨ててこちらへ向かってくる。
あり得ない...あり得ないが、いくつか手段は考えられるな。
まず、ここは真空で音が響くはずは無い。
ということは、何らかの作用でこの場所を空気下と同じ状態にしているという事だ。
『(まずは僕に任せろ)』
『分かった』
エリアスの手出しを封じ、僕は三人に向かい合う。
これが達人の間合いか。
実力が拮抗、或いはどちらかが上回るか、それとも片方の実力差がわからない時。
当たって流れで...は素人の発想、この場合は常に、先に仕掛けた者が敗者となる事が多い。
『なあ、エリアス...いや、アラタ。...俺が産まれた時、お前はギリギリ生きてたんだろう? どう思った?』
唐突に、シンが話しかけてくる。
僕はそれに、余裕をもって応じる。
『別に、何も思ってなどいなかった。...というより、どうでもよかったのか』
僕は遺伝病で20歳になると同時に発症、運動障害で寝たきりになって、最後の方はもうよく覚えていない。
病名も思い出せないほどに深刻だが......
弟の存在は知っていた。
しかし、弟が生まれたと聞いたときには、もうすでに終末期。
まともな思考回路だったとは、お世辞にも言えない。
『それを聞いて、安心した』
直後、僕は飛び退く。
間を置かずに玉座が台座ごと完全に消し飛んだ。
シンが何か放ったのだろう。
僕は不敵に笑って見せた。
『俺は誰からも必要とされなかった』
『わ、私がいるじゃん!』
『.....だからこそ、俺を必要としてくれた唯一の人物と共に俺は行く。俺の人生の細やかな復讐として――――黒川新.......お前を、敵と断じる』
『お兄ちゃんの敵なら.....私の敵!』
仲のいい兄妹だ。
きっと、僕が死んだ後に色々あったんだろう。
彼等を引き裂くのは気が引ける――だが。
油断してはいけない、相手は対等以上の存在なのだから。
僕は一歩退き、機を伺った。
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