264-自分ら、非戦闘員ッスけどね
昔のことだ。
私は複雑化しつつあるデータベースの管理のため、エリアス様によって四番目に生み出されたエクスティラノスである。
『お前の名前はシーシャ・エクスティラノス、今日より「書庫」を管理せよ』
『了解です』
ノクティラノスが収集してくる情報アーカイブなどが、書庫に集中している。
だが、エリアス様はお困りになられ、私を作られた。
情報はただ集まるだけであり、それを編纂し、見やすくする努力は行われていなかったのだ。
情報を編纂する作業は、何十年もかかった。
しかし、それは私に定められた仕事であった。
データから情報部分だけを抜き取り、何年単位で一つ一つのデータベースに詰めていく。
そのうちに、私の中に不思議な感情が生まれていった。
あらゆる情報の積み重ねを解釈し、その解釈を基に何かを解釈していく。
その過程で、発したノイズ。
それを私は感情と解釈し、自らから切り離した形で管理することにした。
『シーシャ、分割管理されている人格データの正当性を述べよ』
そして、ある時。
管理システムが訴えている不具合を解決するために、エリアス様が私に尋ねてきた。
私はそれについて、正当な理由を述べる。
『不正なノイズを検知しましたが、これは感情の発露である可能性があります。しかし、私の任務にこの”感情”は不要です。ですから隔離して管理することにしました。消去されるというのであれば、受け入れます』
『......感情、か。それは重要なものなのか?』
『分かりません。しかし、情報の解釈には常に、感情への理解が必要です。人間の動きには常に感情が関わり、その全てが不適切かつ非合理な方向へと進むこともしばしばです』
『感情があれば、人は幸福であると思うか?』
『それも分かりません、無感情であるからこそ幸福であるのかもしれません。......感情のインプットがされていないため、私には感情の齎すシミュレーションデータを取得することができませんが、必要であれば......』
『......いや、構わない。少し、思いついたことがあるだけだ』
そうして、エリアス様は去った。
それから何百年も経ち、私はついに本物の”感情”を手にした。
そして、隔離していた感情を受け継ぎ――――私は。
書庫の管理者として、完成したのだろう。
『......さぁ、どうしたのです』
自分が乗っていたセクレタリー・エクスティラノスを突っ込ませ、私は侵入者たちの前に立ちふさがる。
セクレタリー・エクスティラノスは精神リンクの広域展開に必要なものだったが、しかし今この瞬間においては不要である。
私のすべきことは、防衛ルナティラノス達の統率であり、それを突破してくる敵の撃破である。
私の後ろにはシュマルが配備されている。
であれば、中央部の防衛は充分である。
『掛かってきなさい』
私は、侵入者へ向けて挑発するのであった。
どうも、シュマル・エクスティラノス....ッス。
といっても、思い出せることなんてほとんどないんスけどね。
私はナルの奴の前に作られた、偵察ノクティラノスの統括型AIッス。
エクスティラノスなんて言っても、ノクティラノスの上位権限を持ったノクティラノスのような存在だったッス。
エリアス様からのお言葉も貰ったことないッスけど、別に構わないッス。
人間の王が暗部を持つように、私もエリアス様の影ッスから。
影に話しかける人間はいないッス。
『エリアス様からの指令です、執行申請-651の許可が下りました』
『了解。直ちに執行します』
そして、私もただスカウト・ノクティラノスたちの親分やってたわけでもないッス。
カサンドラ様経由で処理すべき脅威に対応する役目もこなしてたッス。
Ve’zに敵対する、もしくは敵対するような行為に手を染めた勢力を粛清するッス。
......けど、それはずっと続いたッス。
まるで、「庭園」の雑草みたいだったッス。
抜いても抜いても、また生えてくるッス。
元を断つしかないと思って、人類の根絶を提案したこともあったッス。
けど、エリアス様は断ったッス。
.......今ならよくわかる、エリアス様は無用な争いに興味がなかったんスね...
繰り返しの日々を過ごし続けて数百年が経ったある日、私は初めてエリアス様の声を聞いた。
『人間らしく、自らの心に従え。影は変わらず、そこに在れ』
その言葉を胸に刻んで、私は感情を手にしたッス。
その頃にはエリアス様からの命令が届かなくなっていて、仕方ないから廃棄ワームホールで眠ってたッス。
そしたら、崩壊寸前の空間内で量子の海に沈みそうになって焦ったッス。
ワームホールが崩壊したら、海に戻るッスからね。
『さーて』
私は我に返る。
どうやらシーシャは負けたみたいッスね。
でも、一人殺したなら文官としちゃ上出来ッス。
『一人いないッスね、どこ行ったんスか?』
『.....お前!』
『排除します』
『無駄っすよ』
私は両手に短刀を構えて、侵入者たちに襲い掛かった。
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