248-道化師の幻惑劇
『くっ、厄介ですね!』
そう叫んだのは、Noa-Tun連邦第九指揮官であるノルンであった。
なぜ彼女がそう叫ぶかといえば。
『鬼さん』
『こちら』
『味方か』
『敵か?』
『演目が終わるまで』
『苦しむといい』
現在、ノルンたちは未知の敵と交戦しているからである。
本隊から分離して、未知の宙域に向かった艦隊を追撃した彼女たちではあったが、そこで見たものはあり得ないものだった。
そこには、彼らの拠点であるNoa-Tun要塞があったのだ。
要塞に攻撃すると、それは王国艦隊であった。
なぜ攻撃するのかという通信が飛び、ノルン達は大いに困惑する。
だが、直後王国艦隊から攻撃が放たれ、ノルン・エルフ艦隊に火の手が上がる。
それを確認した第十一指揮官エルフは、冷徹に攻撃指令を出した。
例え友軍であっても撃滅し、戦後に是非を問えばいいという考えからであった。
だが、王国艦隊はノルン達の攻撃を無効化し、攻撃を放って来た。
そして、今に至るというわけであった。
『エルフ、敵の正体は恐らく幻影です! センサーまで欺瞞出来るとは思いませんでしたが...!』
『わかっています、さようなら』
直後。
エルフの乗艦である旗艦カマエルが、ノルンの乗る機体、ネツァクに対して砲撃して来た。
『また幻影ですか』
ノルンは砲撃を回避して、ネツァクをカマエルへと接近させる。
砲塔の上に構え、両腕のレールガンを使った近接砲撃で砲塔を破壊した。
『何故、ノルン様!?』
一方のエルフは、突然のノルンの襲撃に戸惑っていた。
しかし滅茶苦茶に撃ったりはせず、王国艦隊に応戦する。
『本当にいいのかな?』
『それは敵かな?』
声が響く。
エルフはそれに顔を顰めた。
『うるさい!』
『失望したぞ、エルフ』
その時。
彼女の耳に、シン司令官の声が届く。
『味方を撃つなど、なんてことをしてくれたんだ』
『も、申し訳ありません!』
『エルフッ! どうしたのです!』
『こちら王国艦隊指揮官ドールマン、損傷は軽微。そちらに合流する』
最早、誰が敵か味方か。
自分たちの立ち位置すらわからない状態に、二人の指揮官は追い込まれた。
エルフは、本物かどうかもわからないシンからの叱責を受け。
ノルンは、同じく真贋のわからない通信を傍受し。
軍規に忠実な彼女たちは、どうすれば良いかわからない状態である。
本来こういう場合、アテにすべきなのは機械の方である。
だが、それらすら正しい数値を表示していないと、二人は理解していた。
『こうなったら...離脱する』
『離脱します!』
艦隊を一度放棄して、ワープアウトする。
そうすることで、影響を振り切ろうとした。
だが、ワープドライブが起動しない。
『何故...?』
『どうして!?』
答えは単純である。
ポラノルの本体が、ワープ妨害を掛けているからだ。
しかし、本体とは?
二人にはそれがわからない。
幻影を使える以上、王国艦隊に紛れているのかも知れないし、どこかに隠れているかも知れないからだ。
『ならば...全て破壊する!』
『犠牲を許容します、すみません、ノルン様』
そして、二人は味方を攻撃し始めた。
最も怪しい、互い同士で。
当然、勝負はすぐに着いた。
小型の機体で回り込んだノルンのネツァクが、エルフの乗るカマエルの船体を撃ち抜き、引き裂いたからだ。
『Noa-Tun連邦、万歳...』
カマエルは爆散し、ネツァクは全身のスラスターで加速しながら、味方を一隻ずつ破壊していく。
だが、そのうち気付く。
堕とした筈の味方が復活している。
それに、自分のネツァクには残弾があった筈だと。
とても、全軍を撃ち落とせるほどの数はない。
それに彼女が気づいた瞬間、味方が全て残骸へと変わった。
『な...』
二人の指揮官が術中に嵌った時点で、連邦軍はポラノルの連れていたアルバレスト・ルナティラノスの手で破壊されていたのだ。
存在しない友軍を引き連れた彼女たちは、無駄な戦いをしていたのだ。
『く...バカにしていますね...』
『バカにしてなんかいないさ』
『もっと笑って、ほら笑って』
『ニコニコ、ニコニコ』
直後。
ネツァクのレーダーに、一隻の船が映る。
ノルンがそちらを向くと、そこにはポラノルの乗艦、クラウン・エクスティラノスが浮いていた。
以前のカプセルのような船体は変わらず、しかし無駄な装飾で飾り付けられている。
電飾がキラキラと輝き、戦場において相対する者を小馬鹿にするようなデザインであった。
『貴様が...!』
『ほら、手を叩いて』
ポラノルが言葉を発した直後。
クラウン・エクスティラノスが、二隻に増えた。
ネツァクのセンサーにも、そう映っていた。
『量産型...?』
『さらに増えるよ、今度は四つに!』
更に、クラウン・エクスティラノスからクラウン・エクスティラノスが。
増えたクラウン・エクスティラノスからもう一機のクラウン・エクスティラノスが。
『ネズミ算さ、人間はそう言うんだったよね? 算数のお時間! アン、ドゥ、トロワ!』
気付けば、ネツァクは完全にクラウン・エクスティラノスに包囲されていた。
奥にも増え、まるで道化師の世界。
『こんなもの...全てまやかしです!』
ネツァクはめちゃくちゃに発砲するものの、砲弾は全てのクラウン・エクスティラノスの前で曲がって飛んでいく。
それは即ち、全てが本物ということ。
『ショーはお開きさ、悲劇に喜劇、メチャクチャな夢幻劇! お楽しみ頂けたかな?』
『死ね!』
ネツァクは拡散弾に換装し、周囲のクラウン・エクスティラノスに向けて放った。
『あああ、無念! 道化師ポラノルは...ウケが悪い! だけど...おひねりは頂くよ』
直後。
四方八方から放たれた射撃が、ネツァクを貫いた。
逃げ場などなく、ネツァクはバラバラになり、コックピットも焼かれて消し飛んだ。
『よし、終わり...じゃないっ!?』
ポラノルは慌てて飛び退く。
放たれた極大の砲撃が、ポラノルの本体を正確に撃ち抜いていた。
回避には成功したが、全体の三分の二を焼かれた。
すぐに修復し、ポラノルはそちらを見た。
『なるほど...道化師でありながら、化かされたのは僕...ってことか』
ネツァクは確かにエルフの乗るカマエルを破壊した。
それを確認したポラノルは、カマエルを残骸と認識したのだ。
だが、正確にはカマエルとは、第十一指揮官専用機「サマエル」を外装で覆った旗艦である。
外装が破壊され、派手に爆発したように見せかけて、その内部でゆっくりとエネルギーを充填していた。
そして、決戦兵器である巨砲でポラノルを狙ったのである。
ポラノルは悲しげに、攻撃者であるサマエルを砲撃で撃ち落とした。
『一矢...報いました、ノルン様...』
吹き飛んだサマエルから、一人の少女が弾き出される。
パイロットスーツは半壊しており、真空に晒される前に、一瞬だけ彼女の目に「C」のような紋章が浮かび、そして息絶えた。
『ボクはまだまだ未熟かい、ラペニュルジュ』
それだけ呟くと、ポラノルは配下の艦隊を引き連れてワープアウトして行った。
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