236-牙を剥く
「ついに始まったか....」
旗艦アバターのブリッジで、一人の男が呟く。
彼の眼前では、広範囲に展開するVe’z艦隊が見えていた。
既に戦端は開かれており、連邦艦隊は順調に敵を撃破していた。
『こちらアドアステラ、敵の左翼を破壊する』
「任せる」
だが、彼は何か得体のしれないものを感じていた。
敵の動きが妙なのだ。
まるで、失っても構わないかのように動いている。
「妙だな......」
『どう、妙なのですか?』
彼の発言には必ず理由がある。
そう知っているからこそ、オーロラはシンに問いかけた。
「敵の動きが変だ、戦略を重視してきた今までと違い、まるで強引にぶつけるように動いている。後衛に控えている艦隊は、前衛と違って射撃すらしていない、何か変だ....だが、何が変だ?」
シンは可能性を並べたものの、何もわからない。
Ve’z艦隊の平均戦力は確定しており、彼の推測では、Ve’zは数で攻めるタイプであり、決戦戦力というものを所持していないと結論付けていた。
そもそも、通常艦船ですら一国を滅ぼすことができるほど強力なものであり、決戦戦力を大量に保持しているのと何も変わりないと。
「妙だ.......昔の戦いを思い出す」
『昔というと、EGMとLPの決戦ですか?』
「....驚いたな、その時の記憶まで持ってるのか」
『はい、EGMが本拠地に主力艦隊を.....まさか!』
「その可能性を忘れていた! 全艦、直ちにゲートに.....」
両者は同時にその可能性に気付くが、もう遅い。
『後衛に動きあり! 一斉に外装をパージした模様!』
「防御陣形!」
『敵艦発砲! ですが、これは....!?』
後衛に展開していたのは、エクスタミネーター・ノクティラノスに偽装したセンチネル・ルナティラノスであった。
それらが擬装を解除し、合計六十門の砲門を一斉に開いた結果――――
『敵の攻撃目標はゲート! 一撃で機能を喪失!』
「これが狙いか! 全艦、密集隊形! 後衛を仕留めろ!」
長距離艦が砲塔を旋回させ、直後に一斉射撃を開始する。
それは、後衛にいたルナティラノスへと到達し――――
『未知の現象を観測! レーザーが、曲がりました!』
「何だって!?」
装甲に当たる、その手前で。
まるで球に当たった水流のように、ぬるりと曲がって明後日の方向へと飛んでいった。
『敵艦反撃! 来ます!』
「大丈夫だ、一撃なら耐えられる――――」
シンがそう呟いた手前。
艦隊内部で、爆発が巻き起こる。
シールドを一撃で貫通したレーザーが、装甲に接触すると同時に内部に浸透、エネルギー波がその分子構造を断裂させたことで、連鎖的に崩壊を引き起こし艦船を破壊したのである。
『82隻ロスト! 主力艦が狙われています!』
「バカな!? 散開! オペレーションDVを継続する!」
『了解! 全指揮官に通達、散開した艦隊を再編成し、各シールドトランスファーアレイ破壊作戦に出てください!』
オーロラのハッキングの際に、わざと盗ませた情報がある。
それは、シールドトランスファーアレイの存在である。
ケルビスはこれを敵が無視しない筈はないと考え、わざとこれを仕込んだのだ。
『エリアス様、敵が再編成に入りました』
『分かっている、カサンドラ! シーシャ!』
『敵の艦隊は五つに分かれるようです、本拠地攻撃艦隊の他に四つ、これにエクスティラノスを分散配置します』
『僕も出る、本拠地攻撃艦隊を見逃すな』
『はい!』
その頃、水面下では。
フュンフ率いる潜空艦艦隊が、ルナティラノスの真下まで迫っていた。
『幾ら攻撃が効かずとも、亜空間からの飽和攻撃ならば....』
『警告、亜空間ソナーに感あり』
『なっ!?』
直後、フュンフの操るサタリエルと、周囲のヨグ=ソトス艦隊は、真横からレーザーによって襲撃され、その半数を失う事になった。
『奴らも亜空間に入り込む術を持っているという事!?』
『急速浮上を推奨します、射程的に大きく不利です』
『.....くっ!』
サタリエルは二隻のヨグ=ソトスを犠牲に、通常空間へと飛び出した。
その上では、ルナティラノスが待ち構えていた。
『ッ、急速離脱!』
『通常航行システムに切り替え完了、ワープします』
ルナティラノスによる精密射撃を加速で回避したサタリエルは、そのままワープで離脱していく。
同じく飛び出したヨグ=ソトス艦隊もそれに追従する。
『追いますか?』
『放っておけ、どうせどこかで合流するだろう』
『了解』
連邦艦隊もまた、数を減らしながら再編を完了し、それぞれの目標へ向けてワープを開始した。
『ここからが正念場だ、屠殺とはいえ窮鼠猫を嚙む、だ。油断だけはしないように行こう』『ええ』
ケルビスの発言が響き渡ると同時に、Ve’zもまた防衛に向けて動き出すのであった。
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