231-デウス・エクス・マキナ
「.........その名を、どこで聞いた?」
その言葉を耳にしたニトは、僕に対して真剣な表情で詰め寄った。
僕は、彼女に旅で見聞きしたキネスについて話した。
「.....そうか、キネスの破片がそんな事に」
「何なんだ、キネスとは?」
「その前に、まずはアルケーシアという国家について話させてくれないか」
その時、風が吹き、僕とニトの髪を揺らした。
短い沈黙が流れ、僕は頷く。
「アルケーシアは、この宇宙の銀河を四つ支配する大国家だった」
「そうなのか」
「そうである」
となると、何かの災害が起きた時に、三つの銀河が消えたという事か。
いいや、違うな。
失われたのは二つの銀河だ。
もう一つの銀河は、輝きを失ったものの、未開領域に眠っている。
「基本的な社会システムは、この世界の人類とそう変わらぬ。オルトス王国が一番近いであろうか?」
「貴族制なんだな」
「そうだ。社会的な地位は定められていたが、とある理由から我々には我々の幸福が約束されていた。人間としての社会を保つため、このような形が取られていたにすぎない」
「とすると、政治は人の心の安定のためだったというわけか」
「そうである」
宗教に近い。
政治が人の心の支えになる事も、同じようにあるのだ。
誰かが神に縋るように、王に縋るものもいる。
「インフラや経済などというものは意味をなさない。それが好きなものだけが議会に集い、人を率い、弱い人間を守る事を誓ったものが貴族と名乗った」
「権力ではなく、自分の意志の為に.......?」
「理解できぬだろう。だが、後述する理由から、我々は望むものすべてを手に入れる事が出来たのである」
その理由とはなんだ。
僕は尋ねたかったが、彼女は順序を守る人間だ。
「”それ”は中央にしかなく、地方にいる者達は巡礼という形で望むものを手に入れた。”それ”は我々の科学力で生み出したもので、キネスとは”それ”の欠片だ」
「それとは?」
「”神”だ」
ニトの口からその言葉が飛び出したとき、僕はつい笑いを漏らしてしまった。
その笑いは、意外にも大きく響いた。
「.....すまない、仰々しい話から、急に信じられないような話になった」
「信じられないのも無理はない」
だが、分かる。
分かってしまう。
神がいるのなら、全てを満たすことは可能だろう。
「大陸を埋め尽くすような食糧。世界を豊かにすることも出来る。永遠に消えない温もりや、暑さから守ってくれる冷気。その全てを代償なく受け取る事が出来るシステムか」
「そうである」
争いがなくなるわけだ。
そんな状態になれば、人は進化の可変性を失ってしまい、滅びへの道を歩み始める。
だが、そうはならなかった。
「それまで通りの暮らしを続けたという訳だな」
「そうである」
全ては欺瞞。
そう思いながらも、虚無から逃れるように文明は存続した。
不老長寿が叶い、考えなしの繁殖は人口問題へ。
それを解決したのは誰あろう、ニト自身であった。
「あらゆる惑星を改造し、先住民がいれば征服し――――我々の同胞を住まわせたのである」
「だが、何かが起きてそれは終わった、そうだな?」
「そうである」
思えば。
エミドは、本星に夥しい数の人間を抱えていた。
他所から攫って来ただけではない、純エミド人たち。
彼らはどこから来たのか?
最初からいたのだ。
人口爆発によって地方に押し付けられた、空っぽの人間たち。
何故眠らされていたか、よく分かる。
破滅当時のエミドには、それらの人間たちを食わせていくだけの余裕はなかったのだろう。
「では、話そう。神と――――キネスについて」
僕の前で、ニトはそう言った。
その顔は依然として無表情だったが、僕には忌々し気に見えた。
面白いと感じたら、感想を書いていってください!
出来れば、ブクマや高評価などもお願いします。
レビューなどは、書きたいと思ったら書いてくださるととても嬉しいです。
どのような感想・レビューでもお待ちしております!
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




