230-ニト・ルーベル
庭園に出た僕は、辺りを散策する。
そのうち、何かに導かれるように中央部のテラスに出た。
机と椅子があり、人口太陽の光をもっとも効率よく浴びることのできる場所でもある。
「呼んだのは、お前か」
ちょこんと椅子に腰掛け、僕を待っていたのは――――
「そうだ」
ニトだった。
彼女は席を勧め、僕はそれに従い、彼女の隣に座った。
「それで? 何かの能力に覚醒したか?」
「否....吾輩は記憶を取り戻しただけだ」
「そうか」
驚きはしない。
記憶はいつか戻るものだ。
僕は彼女に目を合わせた。
白に近い、薄灰色の瞳が、僕の瞳を無邪気に覗き込んでいた。
「吾輩は、やはり以前も吾輩であったようだ」
「そうか」
「質問するべきことはあるか?」
「お前が話したいと思わないのなら、聞く権利は僕には無い」
「そう......か、小生には理解が出来ぬ」
ニトは少し俯き、呟いた。
これはもしかして、落ち込んでいるのか?
いや、そんなはずはない。
彼女はより上位の文明人なのだ、ラー・ゼソルよりは新しいとはいえ、僕など.....未開の文明の猿と思われてもおかしくはない。
「......質問がある。なぜ基地に住んでいた? 高い技術力を持つ文明だったとは思うが、国家が複数あるようには思えなかった」
「....吾輩たちは、当時植民地の管理を任されていた。小生の真の名は――――ニト・ルーベル」
「ルーベル.....」
「アルケーシアにおいては四大貴族とされ、吾輩の家はその中で三番目に大きい家であった」
「その貴族が、地方の管理か?」
「正確には、地方の巡視に出ていたのだ」
巡視に。
とすると、あの基地にいた理由は何となく察せられた。
「もともと、あの基地のある惑星は、別の場所にあったのだ」
「何だと?」
天体が動くほどの何かが、あったというのか?
僕は驚愕を飲み込み切れず、顔に出してしまう。
「エリアス、あなたほどの女性を驚かせることができるとは、吾輩も捨てたものではないな」
「....ああ」
ニトの過去が性格に影響しているのか、彼女らしくない言動が目立つ。
だが、今のところ害意はないようだ。
「詳しい事は吾輩にもわからぬ。ただ―――本星とのリンクが突如切断され、あらゆる法則が乱れ始めたのだ」
「あらゆる法則?」
「最初は重力、それから時空間の連続性にまでそれは及んだ」
「どうやって生き延びた?」
「生き延びる事は出来なかった、吾輩は未完成のクローン施設に望みを託した、その結果がこれである」
成程。
まだ疑う点は多いが、しかし整合性は取れている。
基地が地中に埋まり、かつ機材が大きく損傷していた理由も、それなら納得は出来る。
「結果として基地は大きく損傷、地上の植民地は衝撃で全滅か」
「そうだ」
だが、それなら別の理由での納得も出来る。
「もしかして、現行の人類は.....」
「ああ。恐らくはアルケーシアの植民地の生き残りであろう」
まるで誰かが播種したように。
この世界には人類が息づいている。
その理由は何だったのか。
アルケーシアという先史文明が関わっているのであれば、不可能ではない事だ。
「我々は星を居住可能な環境に改造する技術も持っていた」
「そうか....」
それならば、僕は最後に聞くことが出来た。
「ニト・ルーベル」
「.....どうした?」
「キネスとは、何だ?」
僕は彼女の目を真っすぐ見て、そう尋ねた。
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