229-虚空に響く声
そして。
エリアスの乗った星空雪車が、アロウトに入港した。
「これは.....すごいな」
星空雪車は、港に係留されている艦艇の間をくぐり抜けて飛行する。
勿論、全体の数に比べれば微々たるものではあるが.....
緊急発進用の新造艦である。
これまでのデザインとは大きく異なり、表面装甲によって薄鈍色に輝いている。
『お帰りなさいませ、エリアス様』
「ああ」
小型ドローンに導かれ、星空雪車はエリアス専用のドックに入港する。
そこに本来あるはずのエリガードの姿はすでにない。
エリアランツェも、まだ未完成である。
『ご旅行は楽しかったですか?』
「あ、ああ...」
カサンドラは真剣に聞いているのだが、それを皮肉と受け取ったエリアスは、若干の後ろめたさを覚えながらも言った。
「だが、実りある旅行だった。先史文明の遺跡からデータを回収してきたからな」
『本当ですか!?』
「Ve‘zの技術革新の元になった技術だ。これがあれば、更なる発展を望めるはずだ」
『早速解析いたします!』
カサンドラの返答を聞き、エリアスは胸を撫で下ろす。
だが逆に、カサンドラは別の感情でいっぱいいっぱいであった。
『(遊びに出られたというのに、成果を出して帰ってくるとは...流石エリアス様! この程度のことは児戯ということですね!)』
遊んで成果を出したエリアスに対し、自分たちは真剣に仕事をして成果を出していない。
そう解釈したカサンドラは、星空雪車の中にあったデバイスを回収、データを収集し始めた。
エリアスはコアブロックに戻り、そこで自分の記憶をバックアップに保存する。
「プロクレードが落ちたか」
そこでエリアスは情報を入手する。
スターゲートの状況や戦略データなどを閲覧し、今後の作戦を把握する。
「総大将が僕なのは納得がいかないな」
そこまで賢くもないのに、とエリアスは嘆く。
それでもコアブロックを後にし、次は居住区へと向かった。
「カサンドラ、エリスは今日は何をしてる?」
『現在はジムでトレーニング中です』
「わかった」
エリアスは階段を作り出し、上階へと上がる。
上がった方が楽だからだ。
そして通路を移動し、庭園を通って居住区の中央部へ向かった。
そこはタワー状になっており、生活に必要な施設がすべて揃っている場所に当たる。
「エリス」
「あっ、エリアス! 帰ってたのね」
トレーニングセンターに向かったエリアスは、そこでエリスに会う。
ランニングマシンのようなものの上で、息を切らして走る彼女は、マシンを停止させると、エリアスに向き合った。
「決戦が近いのね」
「ああ」
「......私には何もできないわ」
「それでいい」
「いいの?」
「勿論、助けてくれるのなら嬉しいのだが」
エリアスは本心からそう言っていた。
もしエリスが超人的な力を持っていて、アロウトに迫る脅威をおとぎ話の魔女が使う魔法のように、蝋燭を消す息のように消してくれればと。
だが、そうはならない。
「それより、エリアス......どう? ちょっとは筋肉付いたかしら?」
「元から筋肉があるから....僕にはわからないな」
エリスは上腕二頭筋を見せびらかすが、エリアスには依然との差異がよくわからなかった。
身体スキャンをすれば一目瞭然だったかもしれないが、そこまで不躾な事をする気は彼女にも無い。
「そう....残念ね」
「本当に筋肉をつけたいなら、Ve’zのデータベースから最適なものを....」
「いいわ。必成目標じゃないもの」
「そうか」
エリアスはそれだけ言うと、エリスと共に下へ降りようとした。
だが、その時。
『エリアス・アルティノス』
空間に声が響いた。
「誰だ?」
聞き覚えのある声に、エリアスは機敏に反応する。
だが、周囲に人影はない。
『庭園で待っている』
「分かった」
「....誰と話してるの?」
どうやら声は自分以外の誰にも聞こえていないらしい。
そう気づいたエリアスは、エリスに別れを告げると、一人で庭園へと降りた。
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