210-遥かなる時代
船の中に踏み込んだ僕は、背後で扉が閉まるのを目視した。
テレポートで移動できるからいいが、この技術レベルだと空間遮断くらいはやってきそうだ。
『...アラウケア』
「っ、誰だ!?」
その時。
唐突に、僕の眼前に、空色の髪と目を持つ女性が現れた。
だが、『目』を凝らせばサーモグラフィーには映らない。
ホログラムだ、それも遥かに高度な。
『ラカウ? シュマリス、オルビア?』
「いや...そちらの言語は分からないが...」
村の言葉とは明確に違った。
僕は言語翻訳インプラントがまったく機能していない事にも気づく。
発音。文法。そういったものが、現代の何とも共通しない言語だ。
『ああ、申し訳ございません。辺境の野蛮人でしたか』
「...随分と口が悪いな」
『我々ラーゼソルの公用語が通じない文明と出会えるとは、光栄ですよ』
「それは...どうも」
ラーゼソル。
聞いた事がない名前だ。
眼前の女性がその言葉を発した時、微妙に区切りがあった。
『ラー・ゼソル』が正しい言い方だろうか?
『この星に墜ちてより約11兆621億2311万1511年211日と9時間が経過しました、あなたは救難信号を追ってここへ?』
「ああ、そうだ」
改めて、物凄い数字だ。
『ということは、おそらく本国はもう...無いのでしょうね』
「何故、それが?」
『“意思”が感じ取れませんから』
「あなたは、もしかして...」
『はい、私の名はデフォン。意識をこの船へ移した、“霊人”です』
意識だけをネットワークにアップロードする。
それはかつて、Ve‘zも同じような事をした記録がある。
だが、それは「テセウスの船」だ。
肉体的に死んだ存在の精神は、電脳という世界では全く発展せず、停滞したまま狂うか思考を閉ざしてしまう。
僕の中にいるエリアスからも、驚きが伝わってくる。
『もう待つのは疲れました。かといって生き続けたくもありません...ですから、私の核であるデータバンクを破壊していただけませんか?』
「それは構わないが...こちらも対価を頂きたいな」
『野蛮人らしい思考ですね、やはり“共感”できない人類は...』
僕はこの機を逃すまいと、息を継ぐことなく発言する。
「対価は情報でいい、本国の座標や、機密、歴史や、どんな機関があったのか...この船になら、アーカイブがあるんだろう?」
これほどの文明だ。
全ての情報をオフラインで保存して置けるくらいの媒体は持っているだろう。
『はぁ...仕方ありません、それも運命でしょう。何より...あなたが乗ってきただろう船は、我々と同じ思考投影技術が使われているようです。技術をもって人類の愚行を繰り返さないあなたになら、託しても構わないでしょう』
「...助かる」
僕は頷き、彼女も覚悟を決めた目で、手招きする。
『さあ、資料室へ。我が国について、それから何が起こったか。何故あなたに託すのか...それをお話ししてから、情報をお渡しします』
「分かった」
僕は静かに、通路を歩く彼女の後へと続く。
『これが、我が国です』
「...!」
資料室と呼ばれた場所で、僕はビジョンを見ていた。
彼女たちの技術である思考投影の一種で、情報を対象の脳に転写できるそうだ。
目の前には、幾何学的に並んだ惑星が、複数あるように見える恒星の周囲を周回している様子が見えていた。
信じられないような光景だが、その全てが効率的に、かつ美しく動作していた。
だが、特筆すべきは、惑星表面上に都市というものが全くないという事だ。
どの惑星も、緑に覆われている。
『なんで...都市がないんだ?』
『地下をご覧ください』
僕は中央に見えた惑星の地下、その深くへと潜る。
そこには、夥しい数の機械が埋まっていた。
だが...どうやって設置した?
一度岩盤を取り除いて設置でもしない限り、こんな密度での配置は不可能だ。
まさか...
『それができる文明なのですよ、我々はね』
野蛮人、か。
成程、比較的紳士的な呼び名だった。
この規模の技術を持つ文明からすれば、Ve’zなど幼稚園児のお飯事に過ぎないだろう。
『我々は霊人となり、共感し合いながら共に発展し、それを拒んだ人間は小規模で集落を作って暮らすようになりました』
『対立は起きなかったのか?』
『意識という全体の中で完結した我々には、地を這う人々は干渉できませんからね』
そうか...
それなら、何故。
何故、滅んだ?
文明の痕跡すら、残さずに。
『それを今から、お話しします。心して聞き、心に刻んでください。人の業は、容易く世界を滅ぼすと』
僕はその言葉に、見えない重圧を感じた。
だが、同時に。
Ve‘zもまた、辿り着くかもしれないいや果てに、好奇心を昂らせてもいた。
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