208-アルティノスさんちの今日のご飯
石碑を調べた後、僕は夕暮れが近いことを察した。
村に滞在してから石碑を調べた時間を加味しても、そろそろ夜になる頃だろう。
そういうわけで、野営である。
エネルギーブロックはあるが、せっかくなので現地の食事をしてみるのもいいだろう。
そう判断した僕は、早速行動に出た。
全速力で森に入り、見敵必殺で大型の動物を仕留め、そのまま退く。
スーツに内蔵された野営キットで血抜きを済ませ、その脂で固形燃料を生成。
肉だけを切断し、燃料で炙って食べる。
その際、村人から貰った練り物を齧る。
「なるほど、保存食の一種か」
齧ろうとしたが、食べられたものではなかった。
火で炙り、柔らかくすることが前提のようだ。
前世で言う、餅のような食べ物だろうか?
「こっちはこっちで、鶏肉のようだ、...」
前世では“Tastes like chiken”という言葉があった。
味の感想に困る肉は全て、このような感想で言い表せるという。
謎の生物の肉はパサパサとしていて、何かの臭いがとてもきつかった。
嗅覚を切って、もそもそと食べる。
「野生動物となると、やはりこんなものか」
人が食べるために調整された種や、加工された肉であればこんなに食べにくいという事はない。
僕は改めて、自分が今まで調整された世界の中で生きていたのだと実感する。
「寒いな...」
この義体は寒さを感じないものの、体温変化のポップアップは視界に表示される。
風が強く吹き荒んでいる。
どこかから吹き下ろしている風は、あの松の木のような樹のある森を抜けて、村を超えてここまで到達するようだ。
なるほど、毎晩直撃を受ければあんな風に枝が曲がるようだ。
「調整された環境か...」
思えば、遠くまで来たものだ。
アロウトまで戻れば、適温かつ無風、適切な酸素環境が当然のように提供され、食事にも困る事はない。
だが、ここではそうではない。
僕はVe‘zという強力な勢力の支配者ではなく、人間より多少強いだけの、大自然という荒波に呑まれる木の葉のような存在だ。
僕たちは決して強力ではない。
どんなに強くとも、世界の理の前では...矮小だ。
だからこそ、アロウトを捨てるという選択肢は間違っているのかもしれない。
だが...
「このままでは何も変わらない、それはお前もわかっているはずだ、エリアス」
僕は一人呟く。
僕はペルソナに過ぎないのだから。
Ve’zが抱える根本的な問題は、もっと根深い所にある。
現状を変えなければ、何も変わる事はない。
僕は目を開けたまま、夜が去るのを二人で待つことにした。
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