205-"大いなる力"
数時間後。
僕は集落へと入り、現地住民と話をしていた。
比較的人間に近いが、頭髪のない奇妙な民だ。
...別にハゲが奇妙な訳ではない。
「それにしても、遠くから、ようこそ」
どうやら、何とか話が通じそうだ。
言語翻訳インプラントにより、言語の情報が集まってきた事で、コミュニケーション能力は身に付いた。
「ああ、言葉が通じにくいが...」
「分かって、います。我々、の言葉、は他と少し、違う」
「違う?」
「天から、落ちた、すごい、存在の、言葉、混じる」
天から落ちた。
とても、興味深い単語だ。
しかし今は、本当に敵対の意思はないのか確認する方が先だ。
「僕は、最果てから来た。最初は、武器を向けられたが...敵対する意思は、あるのか?」
「とんでも、無い、です。我々、先ほど羽織っていた、毛皮、それに、警戒、した」
「なるほど」
先程の巨大生物の脱ぎ捨てた毛皮。
あれを、彼らは良く知っているのだろう。
1人や、2人くらいであれば余裕で殺すことのできる獣だと僕も確信している。
「それで...天から落ちた、というのは?」
「ずっと、昔。空から落ちて来た、巨大な建物。入り口に浮かんだ文字。私たち、文字を崇める。」
「文字を...」
恐らく、その場所が信号の発信地点なのだろう。
これほどの超文明であれば、原始的な彼らの武器や知能では、内部に入る事すら出来ないのかもしれない。
言ってみれば、石器時代に宇宙船が落ちて来たようなものである。
神秘的に捉える以外には、方法がないのだろう。
「...僕は、その建物が発する.........見えない、狼煙を追って来た。もしかすると、僕はその中へと入り...あなた方の大切なものを壊してしまうかもしれない」
一応の配慮だ。
ヴァンデッタ帝国を壊滅させた時も、TRINITY.を全滅させた時も、向こうから先に仕掛けて来たから応戦しただけで、こちらから敵対行動に出ることはなかった。
「構い、無い。私たち、建物に入れる、人間もまた、選ばれた、考える」
「選ばれた...」
「それにあなたには、“力”がある」
「力?」
その言葉だけ、他の単語と違うイントネーションを感じた僕は、つい疑問を口にする。
それに、相手の男はこう答えた。
「私たち、力を感じ取れる。人の中に眠る、“神の破片”。あなたには、とても強い力がある。きっと、あなたには強い願いが宿っている」
「神の破片...?」
「詳しくは、わからない。でも、ここより、南と東に少し行った場所に、石碑あった、私たちに、わかるのは、最初だけ。あなたになら、読めるかもしれない」
「...感謝する」
僕の願い...
その言葉を聞いた途端、記憶の底からあの声が反響する。
『オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
それが、力だというのだろうか?
非科学的極まりない話だ、しかし信じるに値する。
ジェキド・イーシャティブの命を賭した自爆から僕を守ったのは、僕自身の存在だけではないはずだ。
より大きな存在が関わっている。
「そろそろ行く、あなた方と会えてよかった」
「またの、出会いに」
僕は席を立ち、一杯の茶の礼をした。
そして、その足で村を出る。
「遠くからの人、これを」
「これは...?」
村から出る時、駆け寄って来た子供が、僕に葉っぱで包んだ何かを手渡した。
何かと聞くと、
「握り......。持って、行って」
どうやら食糧らしい。
不要だが、貰っておくに越したことはない。
僕は感謝を伝えると、村を離れた。
村人に教えてもらった石碑に辿り着くと、それは綺麗に掃除され、花が供えられた一種の祭壇と化していた。
だが、村人は石碑と呼ぶこれは、明確には石ではない。
何かの破損後はあれど、全く劣化していないからだ。
「エミド語...いや、アルケーシア語か」
完全なアルケーシア語。
こんな遺跡は見たことがない。
イナヅマノカミ遺跡くらいだ。
「...我、刻む...散らばりし、“神の破片”、星々に墜ちたり...神の破片は、人の願いに吸い寄せられ...人の意思に宿る...」
なるほど、最初は比較的解読しやすい。
だがその後は、不明瞭なアルケーシア語が混じる。
イナヅマノカミ遺跡のAIから言語情報を受け取っておいてよかった、全てがほぼ完全な形で解読できる。
「我等、願い叶えし神を作りたり。それは完全なり、何物もそれに及ぶことはなき。その筈であった...神は過ぎたる願いに応えられず、砕け散りたり。神の破片は三つに分かれ、一つは世界の外側へ、二つは星々に墜ちたり、三つは人の血脈に溶けたり」
神の破片...それが、僕に宿る力の正体?
だが、情報が不足している。
「世界の外に落ちたる破片、我らでは回収できず。異なる世界より来たりしものだけが、その要素を持つ。願いの形は何にもなることができる、その願いは力となり宿る。......星々に散りたり破片は、既に願いとなった願いの欠片たり。その願いを選ぶことはできず、強い思いに引き寄せられ宿る...血脈に溶けたりし欠片は、我等では拾い上げること叶わず、その血脈を持つものだけが、その力を扱うことが出来る」
そこでようやく、僕は脳裏に閃くものを感じた。
シーシャに送っていた情報が、明確なものとして返って来たのだ。
この宇宙において、個々人が稀に持つ“大いなる力”...「Kineth」についての情報が。
「アルケーシアとキネスが深い関係にあったとは...」
僕は石碑を再び眺め、これ以上の情報が得られない事を確信した。
同時に、僕の中に宿る願い、その正体が確かなら...
あの攻撃、理外の力である消滅の光、あれを無効化できるのではないかと考えつつ。
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