203-矛盾
「これが、惑星プロミアスか....」
僕は、星空雪車を惑星軌道上に停止させ、その星を見る。
地球そっくりの星だ。
ただし、大陸よりも海の面積が大きい。
信号は、大陸の中央付近から発せられている。
「ここまで信号が強くなれば、解析も出来るが.....未知の言語だな」
Ve’zのデータベースと照合すれば、エミド語に近い事は分かる。
だが、エミドではない。
だからといって、アルケーシアでもない。
なんだ、この文明は....?
「Ve’zやエミドより旧い文明の信号が今も続いているとは....」
Ve’zの文明で生まれた船であっても、メンテナンスフリーとはいえ数百億年も経過すれば機能しなくなる。
それより古い文明の装置があるとすれば、それは僕たちの常識から大きく外れたものなのだろう。
「降下を開始する」
船を降下させる。
惑星の直径は12500km、だいたい地球と同じサイズだ。
シールドを使って大気圏を突破した星空雪車は、着陸可能な平地へと速度を落としながら降下する。
「大気成分は.......驚くほどに地球そっくりだな」
これならそのまま外に出ても問題は無さそうだ。
僕は触手のついたいつもの装備を身に着け、外に出る準備をする。
結っていた髪を解き、エアロックへと向かった。
「フィオとあまり変わらないな.....」
星空雪車から足を踏み出した僕は、周囲に満ちる自然の香りを吸い込む。
フィオの森林と変わらない。
周囲は森であり、森の中に生まれた空白地点に星空雪車は着陸したのだ。
だが――――
「ただの空白地帯ではないな、星空雪車を作った文明は、こういう考えには及ばなかったか」
振り向けば、こちらに向かって威嚇音を上げる大型の動物。
猪と象が混ざったような生物だが、自重を支えるためかそこまで動きが良いわけではないようだ。
「丁度いい」
生態系上位者の臭いを付けていれば、他の生物に襲われる危険性も一気に減る。
僕は装備を起動し、背中から八本の触手を引きずり出す。
「行くぞ」
やる事は簡単だ。
踏み込んで、あの猪もどきを縛り上げ、そのまま圧死させる。
一瞬で距離を詰め、触手で絡み取る。
そのまま握り潰そうとした瞬間、
「何!?」
急に手応えがなくなった。
触手をするりと抜けたそれは、そのまま逃げていく。
後に残ったのは、触手が掴んだ毛皮だけだった。
「毛皮は嵩増しだったか」
恐らく、増加装甲の様に毛皮を外側に纏い、緊急時にはそれを脱ぎ捨てて逃げる。
不思議な生物だ....
「これをそのまま羽織れば......いいか?」
加工してもいいが、脱臭したら意味がないような気もする。
匂い成分はスーツの機能で除去できるので、このまま羽織っていこう。
「さて....この信号の先に何があるんだ?」
僕は呟きつつ、密林の中に足を踏み入れた。
暫く進むうちに辺りは沼地と化し、僕はスーツの有難さを思い知った。
ホバー機能で沼地の上を突き進み、最短ルートで目的地を目指す。
「これも久々だな」
1時間ほど進んだ辺りで、僕は木陰に腰を下ろし、エナジーブロックを摂って休憩する。
前世では全く意識してなかったけど、この身体での五感を認識するのも慣れてきた。
密林であっても、風の流れや生物の気配が意識できる。
僕が羽織っているこの原生生物の毛皮のおかげで、周囲の生物は直ぐに逃げるか、遠巻きにこちらを観察しているだけで済んでいる。
「....いけないな」
不思議と懐かしくなる。
あの時――――僕がエリアスを庇って再び死んだとき。
エリアスは、自分という存在の一部を切り離し、空いたスペースに僕を取り込んだ。
そうする事で、砕け散った僕は、エリアスの一部として存在を許された。
だからだろうか。
エリアスの記憶と僕の記憶が入り混じり、あの時エリアスが感じた、永遠とも思えるほどの孤独。
それを、自分の体験の様に感じ取る事が出来た。
「それでも尚、僕は答えを探している――――」
人は皆、「永遠」と「幸福」を追い求める。
でも、凡人と神のような存在、両方の記憶を持って僕は今、実感している。
永遠と幸福は、両立することは出来ないのだと。
終わりがあるから生は輝く。
しかし、エリアスがそれに納得するとは思えない。
だからこそ――――こんな戦いからさっさと逃げて、そこで答えを探すべきなのだと。
「よし!」
こんな所で悩んでいる暇はない。
僕は立ち上がり、再び目的地を目指すのだった。
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