199-敵の起こす奇跡
『射線回避』
『くっ』
声が漏れる。
エリガードのスラスターを全て使い、僕は再び謎の兵器を回避する。
躱し切れなかった影響で破断したテンタクルレイを分離し、再び全火力をその機体へ叩き込む。
だが、効かない。
凄まじいシールド耐久力だ、だがそれだけではない。
レーザー兵器の被弾面に対して同等のエネルギーをぶつけて相殺している。
もしも人間なら――――尋常ではない。
加えて。
『被弾率2%増加』
その機体だけではない、それが背中から射出した四機のビットが、高出力のレーザー砲でこっちに攻撃を加えている。
速度が速過ぎるうえ、近距離の為にアナテマで迎撃できない。
だが、ビット兵器ならこちらも持ち合わせている。
アナテマは、残存する16基が全てそれに攻撃を加えているものの、効果がない。
『射線回避』
そして、膠着状態になったと思えた時。
唐突に、その機体が距離をとった。
こちらに向けられていた腕が、もう片方の腕と同じように並行になり、前腕部がまるで空に向けて手を広げるように動いた。
何をする気だ?
そう思った直後。
『うわっ!?』
『アオスプロトコル発動』
システム警告が出る。
アオスプロトコルとは、メインフレームがダウンした際にVe‘zの言語で『第二の』を指すアオスプロトコルを作動させ、機体の全システムを再起動するものだ。
今の一瞬で何が起きた?
Ve’zのシステムは地球の電子機器とは全く違う機構で動いている。
なら、電磁波などではダウンしない。
インジェクションアタックにしては、予兆がない。
『アオスプロトコルに異常発生、システム再起動できません』
『イースプロトコル発動、システムを手動で起動しろ。インフォモーフリンクを構築する』
この機体は、僕とエリガードの精神同調で動いているが、それが出来ないのなら仕方がない。
僕はポッドの機能を使い、義体の脊髄制御装置に非実体プラグを繋いで、エリガードと一つになる。
『エリガード、メインフレーム再起動。ケルビス!』
『はっ、プランDですね!』
『待て、違...』
直後。
ケルビスの艦隊から、光の本流が走る。
そして、それはP.O.D.Sごとシールドを吹っ飛ばした。
どうやら、耐久力が時間で減少するらしい。
その光景に、機体の動作が緩慢になる。
僕はエリガードのスラスターを最大稼働し、その機体へ向けてラムアタックを仕掛けた。
シールドで阻まれるが、超質量の衝突によってその機体のシールドが歪む。
そのシールドの断面に、僕はパラダイスロストを撃ち込んだ。
シールドの断面を侵食したエネルギー波は、シールドの傾斜面にひびを入れ、粉砕する。
『ここは僕が抑える!』
『はい!』
ケルビスが二発目を放つ。
本拠地の表面装甲が吹き飛び、その中から別の装甲が露になる。
敵機はそれを見て、引き返そうと動き出す。
『逃がすわけがないだろう』
アナテマ全機で、その機体の翼を二枚破壊し、全速力で突っ込む。
その時、
『射線回避』
『くっ!』
『船体ダメージ増加・メインスラスター強制停止します』
『無理をさせ過ぎたか....!』
だが。
まだエリガードには慣性が残っている。
テンタクルアームで例の機体を拘束し、そのまま接触通信で相手に通信を試みる。
『こちらVe’z、エリアス・アルティノスだ。貴殿と話したい事がある』
『丁度良かった』
その時。
大量の情報がエリガードのコンピューターに流し込まれる。
ほとんど意味のないノイズデータであり、情報爆弾のようだ。
『効くと思うか?』
そっちがそう来るなら、こちらも容赦はしない。
僕もパラダイスロストを充填する。
『射線回避』
『なっ....』
この近距離でそれを使うのか!?
僕は掴んでいた機体を突き放して距離を取るが、回避が間に合わずに船体下部が消滅する。
だが、相手も隙を晒している。
その突き出した左腕――――貰うぞ!
アナテマが、突き出した左腕の関節を撃ち抜いて破壊する。
これでいい。
『複合収束決戦砲式・イリディセント』
もう間に合わない。
デッドエンド数十発とプリズマティックを、ベネディクトの重力操作機構で収束し放つその一撃を。
こいつを抑えている間に、それを放つ準備をさせていたのだ。
『もう遅い』
『発射します』
本拠地は終わる。
全てを失った気分はどうだ?
そう思った僕の目の前で、その機体は真っすぐに本拠地の方へ向かっていく。
『なんだ?』
その時。
本拠地の奥から飛んできた戦闘機のような機体が、変形して人型になる。
それはシールドを展開し、イリディセントを真正面から受け止める。
無駄な事を。
あれを受け止められるわけがない。
.....そのはずなのだが。
『ケルビス、何が起きている?』
『力場が細分化されています。エネルギーが効率的に拡散、消失しているようですね』
『妨害しろ』
『はっ』
僕はこいつにとどめを刺さなければいけない。
仮に本拠地が破壊できなくても、だ。
『自爆プロトコルを起動します』
僕は例の機体に張り付き、そのままエリガードの超圧縮恒星機関を解放して自爆する。
その真横で、光の線が消え去るのを僕は見た。
どうやら失敗か――――
『作戦は失敗しました』
『....だろうな』
僕は、カプセルの中で目を覚ました。
外的要因で死ぬのは、これが最初だ。
この義体は長期間維持するように作られていないので、古くなれば自死してクローンに身体を乗り換える。
『だが、悪くない結果だ』
『......慈悲に感謝を』
僕は敗北を嚙み締めて、保存液に濡れた髪を払った。
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