197-ユグドラシル星系強襲戦
『準備はいいか?』
僕はエクスティラノス達に呼びかける。
既に艦隊は、ジャンプドライブを利用してポータルを形成する装置『ジャンプゲート』の構造内にある。
既に向こうには、『ピンガー』と呼ばれる特殊な高周波ビーコンを展開できる装置を装備したスカウトノクティラノスが、単発ワームホールによって送り込まれている。
Noa-Tun連邦の本拠地であるユグドラシル星系には、ワームホールの発生を抑制する装置が設置されており、長期的なワームホールの展開は出来ないのだ。
そのため、今回僕たちの決戦は、敵の技術のリバースエンジニアリングによって得られた技術での侵攻となる。
これが成功すれば、連邦は大きく弱体化する。
脳髄を失った国家を破壊するのはたやすいことだ。
『ジャンプドライブの起動に必要な水素同位体の入手は容易いものでしたが、この数を飛ばすのにかなり消費します。増援は最大で三回までです』
カサンドラの説明が共有される。
詳細は省くが、水素同位体の燃焼による効率的な動力システムにより、ジャンプドライブの空間壁屈折システムの起動が可能となる。
ジャンプドライブは物体の質量に応じて燃料を使うため、小さな船であれば問題ないようだが、僕たちが使うこれは固定空間に特定質量が通れるジャンプフィールドを生み出す事しかできない。
艦隊は特定質量の上限に合わせるように調整されているので、僕が言った「一度に転送」することは出来ない。
くわえて、ジャンプフィールドの展開は連続で出来ない。
まあ、この辺の解説は僕にもちょっと理解できない。
まずは空間平面と重力力学系の情報をインストールしなければ把握できないものだ。
『フィールド展開まで、3、2、1...展開します』
直後。
僕は、不思議な感覚を味わった。
自分という存在が、この身体から引き剥がされるような感覚を。
そして同時に、僕が一度滅んだことも思い出す。
エリアスを庇い、「アラタ」は死んだ。
けれど、何故か僕は、「アラタ」は生き返った。
どうして忘れていたんだ?
それに、どうしてこんな大事な時に...思い出す?
『遮光フィールド解除、全艦隊は艦列を再構成せよ』
とにかく、僕らはジャンプスペースを抜け、ユグドラシル星系に到着した。
外宇宙とはいえ、すぐに向こうの防衛システムに発見される。
行動は迅速でなくてはならない。
スカウトノクティラノスにより、敵の防衛拠点は判明している。
そこをエクスティラノスたちに襲わせ、僕はケルビスを連れて指定座標へ向けてワープを開始する。
一斉にローカル通信が騒がしくなるが、暗号化されており僕らの解読プロトコルでは解読できない。
『ケルビス!』
『了解』
僕はエリガードの火器管制システムを起動する。
同時に、横でジークエクスティラノスが武装を展開する。
僕たちについてきたロイヤリティイミティラノス艦隊が、一斉に武装を起動する。
『これはまた...壊し甲斐がありますね』
『ああ』
敵の本拠地は、超巨大な要塞であった。
だが、データにある原型とサイズも形状も段違いであり、衛星並みの大きさにまでなっていた。
『パラダイスロスト、エネルギー収束場形成。超圧縮恒星機関からのエネルギー流出確認』
僕は最初から全力で行くと決め、超兵器『失楽園』のチャージを開始する。
それに呼応するように、ケルビスも『プリズマティック』、ロイヤリティイミティラノスは『デッドエンド』を充填し始める。
すぐに発射され、要塞に向けてエネルギー放射が無数に放たれる。
『耐えますか...!』
だが、当然のように防がれる。
超巨大な粒子振動破砕フィールドを巡らせて、衝突したエネルギー流体の貫通性を制御、霧散させているようだ。
壁にぶつかった水のように、パラダイスロストが阻まれる。
それと同時に、要塞の周囲に数千数万の熱源反応がアクティブになる。
『固定砲台だ、ケルビス』
『はっ、お任せください』
固定砲台は、連邦の本拠地周囲に無数に設置されているようだ。
恐らくは、こういった事態に対して即応するための戦力だろう。
惚れ惚れする程の対応力だ。
だがこちらにも、大量の追加砲台...ハンター、ベネディクト、アナテマがある。
この程度の防衛装置はすぐに破壊できる。
だが本拠地の防御だけは...
『こちらカサンドラ、一回目の増援をそちらに飛ばしました。対衝撃態勢をお願いします』
『あ、ああ....』
直後。
僕らの背後にワープトンネルが開き、そこからラエリス艦隊が現れる。
衝角を備えた、意思を持つノクティラノス。
そうか、ラエリス=クイスティラスのシールドを中和する機構があれば、それは種類を問わずに突破できる。
艦隊がシールドに向けて突撃していく。
僕らも彼らを支援するために、固定砲台を破壊して回る。
その時、唐突に警報が鳴る。
『射線回避 射線回避』
「くっ!」
僕とケルビスは艦隊ごとそれを回避する。
それで正解だった。
要塞の中央付近から何かの光が噴き出し、その奔流に飲み込まれたラエリスの信号がロストする。
『なんだ! 何が起きた!?』
『分かりません、申し訳ございませんが....』
僕は機体の望遠を最大まで引き上げ、そこを見る。
『なんだ....あれは......?』
人型の機体が、そこに浮かんでいた。
左右で三枚ずつ、計六枚の菱形の翼を持っている。
右腕を構えており、僅かな光がそこから漏れていた。
『熱源反応なし、熱的破壊ではないようです』
『まずいな』
恐らく敵の最終兵器の類だろう。
『システムジャックを試みましたが、凄まじい速度で侵攻ブロックを遮断されました、ただし、機体名とパイロットの情報のみ入手出来ました』
『見せてくれ』
僕は素早く、その情報を閲覧する。
そして、心底驚いた。
『K.E.T.E.R.』 ファームウェアVer:2.01
パイロット:シンキ・クロカワ
その名前は。
僕の記憶の底で、前世の記憶が浮上する。
『射線回避』
『散開しろ!!』
直後。
再びその右掌が光を放つ。
僕たちはスラスターの最大噴射で散らばる。
だが、巻き込まれたロイヤリティイミティラノスは......
『ロイヤリティイミティラノス、防御を貫通されコアブロックをロストした模様、自爆プロトコルが作動しません』
『何だあれは....』
まるで超高熱で蒸発したように、綺麗な断面を残して、イミティラノスの残骸が無数に浮かぶ。
だが、それにしてはおかしい。
あの機体の周囲で、エントロピーの変化が観測されない。
Ve’zの書庫には、あんな兵器の情報はない。
エントロピーを変化させずに起動する兵器など、この世にほとんどないのだ。
『ケルビス、更に散開させろ。あの兵器は恐らく、あの兵器を無限に撃てるはずだ』
『了解です』
あの機体をなんとかしなければ、シールドを突破する事は出来ない。
だが、遠距離から撃ってもあの攻撃はほぼ一瞬で到達する。
光線のように見えるが、実際は放った瞬間の直線状の全てが影響下に入ると思われるからだ。
『リーサルモードを使用する、僕がやられたら後は頼む』
『了解です』
リーサルモード。
それは、Ve’zの艦艇でエリガードにのみ付いている機能である。
エリガードは脱出艇も兼ねているため、Ve’zの技術での追撃を回避するためのあらゆる手段を行使できる設計なのだ。
ただし、構造材やキャパシターに大きな影響を与えるために普段は封印されている。
もっとも、ジーク・エクスティラノスのような局所強化ではないため、あくまで...
『火事場の馬鹿力...か』
『成程、流石エリアス様です、そのような作戦を』
ケルビスが何か納得しているが、ともかくリーサルモードを起動したエリガードは、タイムリミットを抱えた状態になる。
推進常時起動なら五分、兵器常時使用なら三分、防御常時展開なら一分しか持たない。
それ以上はエネルギーが切れるか、船体が崩壊する。
ジーク・エクスティラノスは近接戦特化型ではなく鈍足だ。
推進特化にすれば、今度は攻撃できなくなる。
だからこそ僕は、この旗艦を囮にする。
『吶喊する! ケルビス、援護を!』
『了解!』
エリガードは速度を上げ、真っすぐに例の機体へ向けて突撃した。
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