186-未知なる国家
カサンドラとメッティーラが、艦隊を全滅させて帰ってきた。
その事を聞いたとき、僕の思考は二つに分岐して、どちらも驚愕する。
まず一つは、Ve’zのドミネーターノクティラノスに耐え、全滅させる戦力がまだこの宇宙に存在していたこと、次に、カサンドラが僕に秘密で戦力を動かしたことである。
当然僕は怒ったわけなのだが、交戦してしまった以上はこれ以上の叱責は無意味だ。
僕はカサンドラに情報収集を命じ、シーシャに記録を遡るように命じた。
結果として、
「何もわからない、だと?」
『はい、交戦記録などは情報にありますが...』
『来歴などは一切不明です』
「エミド関連ではないのか? あの武装はP.O.Dだろう?」
『エミドの記録には、交戦した記録のみが残っています』
エミドからサルベージした情報によれば、ワームホール中に大きな災害を齎したバクタラートの崩壊、それを促したのがNoa-Tunによる砲撃だったそうだ。
エミドは一方的にNoa-Tun共和国と呼ばれるこの勢力に対して侵攻を仕掛けたが、未知の手段によって隠れていた残党軍が速やかにその先鋭艦隊を殲滅、領土を奪い返した上にエミド統合体のワームホールを掌握してしまったそうだ。
恐るべき軍事力である。
「脅威だな」
『はい、最初に艦隊を吹き飛ばした弾頭と、シールドを貫通するレーザーは、それぞれビージアイナ帝国戦役・エミド戦役の前には存在していませんでした。恐らくは、両勢力由来のものであり、対策が可能だと思われます』
「......ところで、首長は死んだのではなかったのか?」
Noa-Tun連邦の首長、ノーザン・ライツは一年前、王国との戦争時にオルトス王国の英雄、カル・クロカワによって討たれている....という事になっている。
だが、眠っていたように活動を止めていたNoa-Tun連邦が動き出したという事は、首長が戻ってきたという事だろう。
『そのようです、数週間前より、Noa-Tun連邦内部での大きな活動が見られます。戦力の再編成などですが、解析中だったためお知らせはしませんでした』
「ああ、それは仕方ない事だ」
僕たちにとっては、あまり気にするべきことではなかっただろう。
オルトス王国と停戦していたのは知っていたが、少なくとも今まで脅威にはなっていなかったからだ。
だが、彼等の中央星系の名を聞いたとき、気が変わった。
その名は「ユグドラシル星系」。
この世界に、ユグドラシルという名前は存在しない。
シーシャの調べでは似たような名前はあるが、明確にユグドラシルという名称はない。
つまりは、このNoa-Tun連邦とは、異世界人....それも地球人が創設した勢力であるという事だ。
この時点で、もう退く事は出来ないだろう。
その記録を分析、元の世界へ戻る術を探す。
同時に、
「既に内部では動きがあるんだろう?」
『はい、Ve‘z領域にも既に、ゲート通過履歴が複数存在しております…ただ、遮蔽の精度が高くスキャンで発見できません』
「『網』を張れ、中央星系群に侵入される事だけは防げ」
『了解です』
『網』とは、遮蔽装置…即ち、光学的に姿を隠す装置に対して有効な装備だ。
現在のVe’zの遮蔽技術に至るまでに、副次的な発展として生み出されたのだ。
ただ、強度によって天体にどんな影響を及ぼすかの計算が未知数のため、ゲート周辺での展開を中心に運用する事になるだろう。
今までの戦闘で、ワームホール生成技術については確認されていない。
首都星系アロウトにはワームホールの展開は出来ないが、向こうがエミドの技術をリバースエンジニアリングしている以上いつかは避けては通れなくなる。
全恒星系にワームホール生成妨害装置を設置し、任意のタイミングでオンオフする事でこちらの戦力だけを的確に送り込む。
「敵の遮蔽看破能力を測りたい、シュマルを偵察に送り込んでくれ」
『はい』
まだジェネラスを出すフェーズではない。
隠密特化のシュマルを送り込み、内情を偵察するべきだろう。
それから、僕はメッティーラに視線を向ける。
『…』
「気に病むことはない、戦闘記録は閲覧済みだ、敵の能力を最初から上と見るか、下と見るかの違いしかなかっただろう」
事実僕らは、互角以上の相手をした事がない。
だからこそ、AIという冷酷無比な思考回路であっても「慢心」が生まれてしまった。
これは、僕の予想外の事態である。
「すぐにタッティラに対策装備を完成させるように命じる予定だ。既に敵がこちらに勘付いた以上、すぐに侵攻が開始されるだろう」
僕らの当面の計画はこうだ。
まずは、防衛を行いながら彼らの文化、価値観、戦略、文明レベル、技術を事細かに分析していく。
そこから指揮官の取る選択肢を絞り込み、選択肢を狭めて行動パターンを限定、艦隊を殲滅に追い込む。
そこからはただ反撃だ。
エミドのように、ワームホールを使用した飽和攻撃で防衛リソースを枯渇させ、首都星系であるユグドラシル星系に主力艦隊を送り込み、本拠地を破壊する。
本拠地と総司令官を失いさえすれば、彼等は勢力としては大きく弱体化、あとは放置しているだけで瓦解する。
無論、これは希望的観測に過ぎない。
同じ事をやったエミドは、どこからか現れた主力艦隊と、逃げ延びた指揮官の手によって壊滅寸前にまで追い込まれた。
一手指し違えれば、喉笛を食いちぎられるだろう。
今までのようにはいかない。
まさに、これこそが決戦だと言えるだろう。
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