182-みんなで登山
「待って、待ってエリアス~....」
「なんだい女王サマ、おぶってもらえばいいじゃないか」
後方から声が聞こえてくる。
僕は触手を伸ばし、ティニアのもとに差し出した。
「えっ!?」
「乗れ、運んでやる」
「ひゅー」
ティニアを持ち、手元に運んでやる。
それを見て、エリスが視線を向けてくる。
「.....いいだろう、別に」
「嫉妬じゃないわ、ただ...その、扱いが雑じゃないかと思っただけよ」
「私はいいよ、構わないもん」
僕は後ろを振り向く。
そこには、驚異的な身体能力でついてくるディオナと、キシナと一緒に登ってくるアディナ、その後ろで息も絶え絶えのサーシャが見えていた。
今は見えていないが、小型のノクティラノスが百人近くのニトを引率している。
「エリアス様、この先に障害はありませんでした」
「そうか」
その時、ケルビスが戻ってきた。
僕らが今何をしているかと言うと、登山だ。
惑星フィオにある山に登っている。
この惑星は危険な生命体はいないが、一応ケルビスを監視に出している。
「エリアス、どうして急に登山なんてするの?」
「私が約束してたのよ、ティニア」
「そうなんだ! じゃあやっぱり、ラブラブなんだね!」
「そ、そうなのかしら.....」
廃墟惑星は、まだ免疫に問題のあるキシナやニトには危ない。
なので、フィオにやって来たという訳だ。
「お弁当も作って持ってきたからね!」
モニ....ティニアの心遣いには頭が上がらない。
僕らは山の中腹におり、山頂目指して行軍中という訳だ。
「それにしても、面白いわね」
「何がだ?」
「だって、この場にいるのは私を除いて、大組織のトップばかりでしょう?」
「それは確かに、そうだね!」
「そうだな」
エリアスという、自分もまた国家の首長ではあるわけだ。
「エリス、疲れていないか?」
「大丈夫よ、Ve’z技術の一部のおかげでね」
エリスを蘇生したときに、エリスの体の一部にはVe’zの要素が組み込まれている。
疲弊しにくくなるのも当然の話か。
「私はアウトドア派だから、慣れてるよ!」
「アタシらは体力無かったら死ぬんでね!」
ティニアとディオナは口々にそう答えた。
僕は立ち止まり、背後を見る。
「アディナ、キシナは大丈夫そうか?」
「はい、でしょう?」
「.......はい」
キシナは短くそう答える。
悲しい事だが、キシナの自我はもう一から形成するほかない。
Ve’zの技術でも、精神の復元が出来ないレベルに破壊されてしまっているからだ。
流石に、0に限りなく近いレベルの精神では....。
「サーシャ、大丈夫?」
「大丈夫...です、お姉様」
この中で一番疲弊が酷いのはサーシャだ。
純人間かつ、オフィスワーカーらしいからだ。
アルクレイスはあれで肉体労働派らしいので、一番貧弱なのはニトを除いてサーシャだろう。
サーシャを追い抜く形で、ニト達がゴンドラに乗って追いついてくる。
ニトのクローンたちは好奇心旺盛で、直ぐにゴンドラから出ようとする。
安全のため、キャリアー・ノクティラノスは人間の徒歩より遅い速度で動いている。
そのため、僕らより常に遅いのだ。
「エリアス殿、吾輩のクローンたちに気を遣ってくれて済まない」
「いいや、構わない。意思を得た以上は人間として扱うべきだ」
僕はキャリアー・ノクティラノスにもう少しペースを上げていいと伝え、みんなで頂上を目指す。
中腹あたりで、僕たちは屋台のようなものを見つけ、足を止めた。
「...ケルビス、何をやっているんだ?」
『皆様、お疲れかと思い、カガール星系の文化群から引用したお菓子と茶を振舞おうかと思いました。...いけませんでしたか?』
「いけないということはないが...成程」
地球っぽい屋台だなと思っていたが、この世界は広い。
同じような文化もあるんだろう。
僕たちは一度足を止め、ケルビスが作った菓子を頂く。
前世のもみじ饅頭のような、柔らかい生地の中に何か甘いペースト状のものが入っている菓子で、口に入れると形容し難い、しかし不快ではない香りが鼻に吹き抜ける。
お茶は、いつものケルビスが作っている茶葉のものだ。
「美味しいわ」
「これ、定期的に買えないかな、うちでも飲みたいかも。...あ、でも、あんまり高いとジアンが怒るから...」
お茶はティニアには好評のようだ。
対して、ディオナはあまり好きではないようだが。
「嫌いか?」
「あんたの前じゃあまり言いたくないが...そうだね...うちらが愛飲する鉱水茶とはちょっと、風味が違うのさ」
鉱水茶...少し興味があったので、後でカサンドラに頼んで取り寄せてもらうことにしよう。
僕は、他の面々の様子を見る。
ニトは、ニトたちがお菓子を取り合わないように食べさせている。
サーシャは心ここに在らずといった様子で、虚空を見ながらお茶を時折口に運んでいた。
その横では、アディナがキシナに菓子を食べさせている。
キシナはそれに反応こそ返さないものの、菓子を咀嚼し飲み込む事はしていた。
「そろそろ行こうか?」
「ええ、そうね」
15分ほどたった後、僕はそう提案する。
もう日が傾いてきている。
景色を見るなら、夕方よりは早い時間に着いたほうがいい。
『後片付けは私めがやっておきますので、御先をお急ぎください』
「頼む」
ケルビスに後片付けを任せ、僕たちは出発する。
この山はあまり勾配がきつくないのだが、その分時間がかかる上疲労する。
僕はやめようかと思ったのだが、エリスが「その方が達成感があるでしょ?」と言うので、この山にした。
帰りは仲間の疲労度次第で、エリガードでの回収になる。
「つ、疲れたね.......」
「もう少しだ」
そこから数時間、流石のティニアも疲れて来たらしい。
最初から飛ばし過ぎたのだろう。
「....それとも、腕に乗るか?」
「いいの!? ありがとう、エリアス!」
腕(触手)にティニアを乗せ、僕は地面を一歩一歩踏みしめる。
この身体に疲弊というものはない。
だが、確かに足取りは重くなる。
キャリアー・ノクティラノスの足取りに合わせるように行軍を遅らせた結果....
「夕方になったな....」
「ええ、そうね」
夕方になってしまった。
地平線に、太陽が沈もうとしている。
もうすぐ黄昏がやってくるようだ。
「どうする? やろうと思えば、昼の時間に戻る事も出来るが......」
「....いいえ、これでいいわ。みんな、写真撮りましょ!」
「うんうん!」
「いいねぇ」
「写真、興味深い....」
Ve’zの技術なら、数時間前に戻る事は出来なくもない。
思い出のためなら、僕はそれに値するリソースを支払える。
だが、エリスはそれを断り、旧式のカメラを取り出して皆を並ばせる。
「....シュマル」
『はい、何でしょうか?』
「写真係になってくれないか?」
『分かりました』
すぐ傍で遮蔽して隠れていたシュマルを呼ぶ。
人間体を手に入れた彼女は、僕から忍者に類する話を聞いて、くノ一の格好を好んで着用するようになった。
流石に凶器を持ち歩いてはいないが(アロウトの防衛システムが誤作動を起こすため)。
僕は並んだ皆の真ん中に立つ。
「ほら、ポーズ取りましょう、エリアス」
「あ、ああ」
僕はポーズを取る。
直後、シュマルがシャッターを切った。
同時に僕は、前世で、こんな風に写真を撮った事がない事を思い出した。
家族の仲は悪くなかったが、母親は思い出に拘らず、父親も必要がないならそれで、と言っていた。
僕は自分で言うのもなんだが優秀で、学校でもあまり付き合いが無かったので、節目の集合写真の端で乾いた笑みを浮かべていた。
だからこそ。
僕はぎこちなく口端を上げ、笑った。
次のシャッターで、僕たちの集合写真は完成した。
「.....帰るか」
「ええ、そうね.....」
日が完全に沈み、世界は夜に染まっていく。
地平線に消えた太陽が、少しばかり空を照らし、黄昏刻が始まった。
「来い、エリガード」
軌道上に出現したエリガードが、惑星の重力場に合せて機体を調整させながら降りてくる。
超巨大な艦船であるエリガードだが、王国首都に降りた時と同じで、機体を調整すれば惑星の環境に影響を及ぼすことはない。
エリガードは数度の改修を経て、戦闘艦ではなく輸送艦により近くなった。
もしこの先戦いがあったとしても、エリガードの新型があるので問題ない。
「今日は楽しかったわ」
「うんうん! 一生の思い出だよ!」
「なかなか出来る体験じゃないねェ....ありがとう、エリアス様」
「集団で集まり、何かをする体験は得難いものだ。吾輩は感激を覚えている」
「....お姉様といれて楽しかったです」
「キシナ様も、きっと楽しかったと思われます」
エリガードに乗り込む際、皆は僕に感謝してきた。
何故感謝するのだろう?
僕がそれについて考えようとしたとき、ティニアが叫んだ。
「――――あっ!! お弁当!」
「中で食べましょう、ね?」
「(夕飯が近いのだが.......)」
敢えて言わないでおいた。
僕らは星を離れ、アロウトへと戻るのだった。
時間を確保するため、あえてワームホールジャンプを繰り返しつつ。
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