180-帰還
気付けば、白い空間にいた。
目を開けようとしたが、既に開けていた。
手を動かそうとして、動けないことに気づいた。
『...エリアス・アルティノス』
その時、声が響いた。
僕がそちらを見ようとするが、頭は動かない。
だが、誰の声かはわかった。
ジェキド・イーシャティブの声だ。
つまり...僕は失敗した?
『よくぞ私を打ち倒した』
『...だから、なんだ?』
どうやら失敗したわけではないようだ。
それなら...なぜ僕はここにいる?
引き裂かれた精神パルスは、エリアスという肉体を離れて消えたはずなのに。
『ここは何だ?』
『分からぬよ、私はただ...エリアス、お前に遺言を伝えたいと思ったらここにいただけの話である故に』
エリアスの肉体を感じられないのに、僕の姿はエリアスのままだ。
アラタの姿じゃない。
『遺言だと? 何百億の人間を縛り上げ、遺言すら聞かずに殺してきたお前が?』
『......私は敗けたのだ、お前達ではなく、ただの人間達に。そして......思い出した、エミドもまた、自縄自縛の円環の中にあったのだと』
僕はその言葉で察する。
ジェキドの精神が、最初の冷酷さとは違い感情豊かになった理由を。
ジェキドがエミド兵に洗脳を掛けるように、ジェキドもまた自分自身に洗脳を行なっていたのだと。
『......我等はアルケーシアの地をとある理由から追われた。理由についてはもう分からぬ、思い出せぬ...しかし、その際に安住の地を探そうにも、異次元世界であるこの世界には、我らの居場所などなかった。そこで私は、自分に感情と共感を封じる洗脳を施し、エミド統合体...つまりは、同じ意味であるが...それを再び惑星上に築くために武力を振るうはずだったのだ』
長い時が経ち、彼の精神もまた磨耗していたということだろう。
本来の目的を忘れ、秩序を保つなどという意味不明な行動に走っていた。
兵は乱雑に複製され、その数を増し続けていた。
全ては、本来新たな故郷を作りたかっただけの彼の意思から逸れてしまっていたのだ。
『気づいた時にはもう遅い。もう止まることなどできぬのだ、私は...私は、自らの罪を悔いる。許せとは言わぬ、だが...滅ぼしたのだ。我がエミド統合体を、責任を持って面倒を見てほしい、それから...キシナ、哀れな我が従者には、どこかの惑星で、幸福になる権利を......』
『虫がいいな』
『......私はどんな罪でも背負おう。しかし、キシナを...私は愛していたのだ』
『...まあ、いいだろう』
その時、僕は遠くから声が聞こえてくるのを感じた。
それに呼応するように、ジェキドの声は遠ざかっていく。
『...エリアス・アルティノス...バクタの井戸は、アルケーシアに繋がる閉じたワームホールが変化したものである...それ故に、それを開くことができたのであれば...アルケーシアに辿り着けるだろう』
『...次のお前の人生に、幸多からんことを』
僕は死者に対して賛辞を述べ、段々と近づいてくる声に耳を傾けた。
その声は、男でも女でもなく聞こえ、空間全体から響くようであった。
『オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
『帰ることだ、地球ではなく...アロウトに』
『ソノ ネガイハ モウカナッテイル オマエノ ネガイヲ イエ』
『...叶っている...?』
訳がわからない。
だが、叶っているのであれば、そうかと言うしかない。
なら...
『世界を平和にしてくれ。どんな理不尽も屈服させて欲しい』
『オオキ スギル...』
意外と不便だな。
僕は考えつつ、一つの答えに辿り着いた。
『ならば、僕自身にその平和を齎す力を...調和の力を与えてくれ』
『ソンナモノデ ヨイノカ?』
『構わない』
現状が何とかならないなら、このよく分からない願望器に願いを託すのも悪くはないだろう。
『デハ オマエノ ネガイヲ カナエヨウ』
最後の「〜ヨウ」の部分が無数にエコーしながら、徐々に減衰して消えていく。
それと同時に、僕は自らの中に暖かみを感じた。
『ああ.......そうか.......』
僕の姿がアラタじゃなかった理由。
願いが既に叶っていた理由。
『僕は、あの世界を......』
地球よりも、愛していた。
その証拠なのだと思いつつ、僕は静かに目を閉じるのであった。
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