150-敵地デート
「さて」
僕は呟く。
場所は、TRINITY.本部のあるヤルヴェナプライムⅠに来ている。
尖塔の上で、僕は夜景を眺めていた。
「ここは美しくないな。.....そう思わないか? アルクレイス」
「.......はい」
僕の隣には、TRINITY.の主力艦から回収した人間であるアルクレイスがいた。
口を割らせる過程で大分素直になったのだが、拷問まがいの事をしていたケルビスを諌めてやってから様子がおかしい。
「エリアス...様の慈しみを無視して、プライドのためだけに愚行を繰り返す....そんな人たちの都市ですから」
「僕は慈しんだ覚えはないが....それより、降りるぞ」
「はい」
僕はアルクレイスと共に、都市の下部へと降りる。
降りると言っても、テレポートするだけだが。
「さて、お前のIDはまだ有効だな?」
「....はい。私は生死不明ですから」
アルクレイスは僕と共に、TRINITY.のデータベースへのアクセスを試みるためにここに来た。
彼女は警視監なので、その権限で大抵の機密にアクセスできる。
「この裏切りが、どれほど重いものかは理解しているか?」
「......私は、本当の真実に気付かず、偽りの正義を掲げていました。あの悪魔のような男からの責め苦からも解放してくださいました」
心が痛い。
TRINITY.の正義が丸っきりプロパガンダにもならない虚構なのは認めるが、ケルビスが何をやり、僕がどう止めたかは記憶に新しい。
彼女に高速再生インプラントを行い、適当に聞きかじったらしい拷問のフルコースを披露したそうだ。
考えただけで悪夢のような場所から彼女を連れだしたのが僕だ。
あの時僕は、ファラリスの雄牛のようなものに掛けられていた彼女を見て、ケルビスの趣味の悪い料理華と思い、要らないから中身を出せと要求した。
結果として、中から出てきたのは重傷を負ったアルクレイスであり.....
『僕は”尋問”しろと言ったが、”拷問”しろとは一言も言っていないぞ』
と、咄嗟に怒気をむき出しにしてしまった。
人間に関してはどうとも思っていないが、目的をはき違えるのはAIのする行動ではない。
「.........こっちです」
「ああ」
アルクレイスは僕を、無人らしい秘密施設に案内してくれた。
それは、下層の放棄されたエリアに存在していた。
「ところで、この場所は凄まじい放射能汚染に晒されているが、大丈夫か?」
「まだ、再生インプラントが刺さったままですので。」
Ve’zの再生インプラントは、基本的な細胞分裂を増幅させるものではない。
正常な細胞の代替を行い、その内本物そっくりに変化する。
細胞に異常が出れば、本来の癌細胞とは真逆に、異常な細胞が周囲の細胞によってイニシャライズされ、再び作られる。
ただ、痛覚はしっかりあるはずだが。
しかし....彼女はやんわりと微笑むだけだった。
「よく維持しているな」
「大方、上に報告がないまま放置されているのでしょう。いい顔をしませんから、聞き心地のいい報告しか行いません」
「無駄な事だ」
しかし組織は得てしてそういうものだと、僕は前世の浅い知識で知っている。
なぜそうなるのか、なぜ対策できないのかまでは分からないが、少なくともエクスティラノス達も同じような事をする。
『認証情報を確認しました』
「やはり、私のデータベースは更新されていません。彼等らしい雑な仕事ですね」
情報をまんまとダウンロードしたアルクレイスは、僕にメモリを手渡してきた。
「じきにここも特定される筈です」
「ああ、戻ろう」
彼女を置いていくと余計なことを喋られる可能性がある。
最後の処理を終えなければ帰せない。
僕は仕方なく、彼女を連れてアロウトにテレポートした。
「......これは、中々面白くなってきたな」
僕は回収したメモリーの中身を見た。
それは、TRINITY.の最終兵器、ワールドアークの情報であった。
その主砲の威力は、アサルトノクティラノスの通常攻撃の十分の一程度まで迫るものだ。
よく人間がこんなものを作ったものだ。
『我々の基地から情報を奪ったのでしょう、発展せず流用のみ行われ、むしろ劣化した技術が無数に用いられています』
「やる事は結局猿真似か」
僕は呟く。
『奴らの前であの艦を一撃で破壊してやれば、いいデモンストレーションになるでしょう』
「いいや」
僕はそれを手で制した。
「希望を打ち砕く、それは確かにこちらの目的とも合致する、だが――――この侵襲行為は単なる快楽主義者の虐殺という目的ではない。二度と逆らえないように刻み込む必要がある。よって――――」
僕は厳粛に宣言する。
「僕が直接相手をしよう」
.....ところで、ケルビスはどこへ行ったんだ?
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