131-不壊の誓い
Ve’zの領域に送った艦隊から、完全に通信が途絶した。
それは、連合軍の結束に大きな揺らぎを生んだ。
『これは一体、どういう事かね?』
キロマイア皇国の皇帝デルジャの言葉が、会議室に響く。
叱責されているのは、TRINITY.の総裁エルドリヒ・オーンスタインである。
「どういう事も何も......我々の艦隊も全滅したのです、私一人の責任ではありません」
『バカも休み休み言え! 主力艦を十五隻も出したのは、”勝てる”とお主が言ったからだ! 自分の言葉に責任を持てないのであれば、今すぐ辞任したまえ!』
ジスティカ王国のリューギリスが、大声を出す。
主力艦とは、国家のナイフであり、盾である。
持っているだけで抑止力になるものを、十五隻も失ったのである。
一隻にかける建造費用は国家予算の数倍であり、人材育成には数百年を要する。
「それを言うのであれば、我々も四十五隻の主力艦を失ったのですぞ!」
『我々の敬虔な信徒たちを無駄死にさせておいて、その言い草ですか』
イラサ法皇が、悪意の籠った声色で発言した。
『とにかく、我々もこのまま勝利できないのは拙いのではないでしょうか』
「.......その通りです、法皇。もし勝利できなければ、我々は皆失脚するのですよ」
『貴様! 何たる卑怯な真似を....!』
リューギリス王が叫ぶが、総裁は邪悪な笑みを浮かべた。
「もう逃げられませんなぁ、貴方達も、権力が大事でしょう?」
最早エルドリヒには、それ以外の道は残されていなかった。
そして、そのための作戦も。
『....では、どうされるおつもりか?』
「当然です。Ve’zに我らの力が及ばぬのであれば――――その配下を、討ち取ってしまえば戦争終結の言い分は確保できましょう」
『.......貴方は、もしや.......同胞に剣を向けろと言うのですか!?』
イラサ法皇は叫ぶ。
だが、エルドリヒは嫌らしい笑みを崩さずに言う。
「何を言うのです、汚らわしい肌と忌み嫌う悪魔の民族を、滅ぼせるいいチャンスではありませんか」
『...............』
『我々に、オルダモンとの戦争を再開せよと? 同じ過ちを繰り返せと言うのか?』
「弱かったから負けたのですな、連合軍と共に戦えば、負けることなどありえません」
『................』
イラサ法皇は、クロペル共和国との対立は自らの宗教の教義であり、それを国民全体の意思に昇華させたくはなかった。
デルジャ皇帝は、高まるオルダモンとの再戦の動きに気づいていた。
だが、戦えばまた負けるかもしれないと恐れていた。
しかし両者の主張は、皮肉にもエルドリヒに封殺された。
『.........承知した。悪魔の民族を、必ず滅して見せよう』
『では、ヘルティエット王国はオーベルン神聖連合と共に戦います』
『仕方あるまい、国内の結束は高まっている、今こそ戦いの時だ』
『ジスティカ王国は、キロマイア皇国と共に戦おう!』
エルドリヒはにやけ顔を抑える事が出来なかった。
Ve’zには勝てなかったが、対国家で領土を一つ奪い取るだけでこの状況を打破できるのである。
余裕、であった。
それが全て、ケルビスに知られていることを除けば――――
「という訳で、TRINITY.の連合軍が攻めてくるぞ」
「この間も聞いた内容だねぇ」
「.........その言い方は...もしかして、オルダモンとクロペルに直接?」
「そうだ」
僕は頷く。
ケルビスが教えてくれた情報は正しく、敵の進軍予定地はシルターエルト星系である。
ここは、オルダモンとクロペルの間にある星系であり、互いの支援を断絶するという意味もあり、そこから攻撃を開始するだろう。
「そこで提案だ。Ve’zとオルダモン、Ve’zとクロペルが組んでシルターエルト星系を襲撃したら、中々面白いことになると思うんだが?」
「......ほーん? 成程ぉ、そいつは面白い」
「....どう思いますか、ジアン?」
モニ........ティニア女王は、ジアンという側近に相談している。
丸聞こえだが、話は付いたようだ。
「......ジアンは優秀な騎士でもあります。もし、チャンスがあるのでしたら....敵の司令官は、ジアンに殺させてください」
「御意」
「ああ、構わない」
クロペル共和国にとって、戦いとは手段を問わない。
勝った者にこそ.....より詳しく言うならば、首級を取った者こそが、あらゆる卑怯な手を使ったとしても、強い者に手を貸してもらったとしても、もっとも栄誉ある人間となるのだ。
「申し訳ございません、偉大なるVe’zの王である貴方の前で、このような願いを....」
「いいや。それより、ジアン――――死ぬなよ」
僕は真っすぐにジアンの目を捉えた。
「首なんていくらでもくれてやろう、だが――――死んだ人間は生き返らない。ティニアを悲しませることがないようにな」
「はっ」
ジアンは僕の言葉に、跪いて承諾したのだった。
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