122-騙して悪いが、仕事なんでな
その日。
ディレンズ、クロモース、ジジルト、カイア――――名だたるVe’zの領域に、TRINITY.の連合軍が攻撃を仕掛けた。
主力艦をそれぞれ四隻ずつ動員し、五万隻の艦隊が何百もの分隊に分けられて進軍していた。
だが、彼らを待っていたのは――――ただひたすらの、静寂であった。
確かに、艦隊はいた。
戦闘態勢にはあるものの、ターゲットすらしていない状態で浮いていた。
「何をしている....?」
『どうせ攻撃できないと高をくくっているのでしょう』
『....しかし、我々から撃ってしまっては、防衛戦の建前が....』
連合軍は攻めあぐねていた。
あくまで、攻めて来る可能性があるので征伐するという内容であるため、撃ってこない対象を一方的に撃つのは躊躇われた。
だが、彼等は忘れていた。
誰がこの戦の言い出しっぺかを...
『おい、何故撃っている!?』
『分かりません、TRINITY.が発砲しました!』
クロモース星系で、TRINITY.が誰より先に撃った。
その一撃は遠距離であるのにもかかわらず、確実にVe’zの小型艦に直撃した。
勿論、シールドはまるで減衰していなかったが――――その途端。
「TRINITY.艦、撃沈されました! 攻撃が続行されています!」
「わ、我々も攻撃開始! TRINITY.艦を援護せよ!!」
「攻撃開始!」
「神よ、我らに加護を! 撃て!」
Ve‘z艦隊が一斉に反撃し、TRINITY.艦に被害が出たことで、クロモース星系に駐留する艦隊は、一斉攻撃に出た。
そして、当然ながら...Ve’zの一斉反撃に遭った。
多くの被害を出しながらも、連合軍はVe‘zの艦船数隻を落とすことに成功していた。
それが連合軍の士気を高め、ひとまず第一次戦線は、連合軍の勝利となったのであった。
『何と愚かな.....』
ケルビスが唖然としていた。
だがそれは、味方に対する失望ではない。
『まさか、あんな簡単に騙されるとは.....愚かにもほどがあるのでは....?』
ケルビスはあまりの事態に目を見開いていた。
「どうやら、ティニアの策が上手くいったようだな」
『我々の強さを伝説だけでカバーしていたので、違和感に気づけなかったようですね』
ハリボテ艦隊計画。
敵に上手く油断してもらうにはどうすればいいか相談したところ、ティニアが考えついたのが、「ガワだけ最新版の艦を用意して、中身は型落ち」という作戦であった。
正直なところ、型落ちをサルベージする方が難しかったが(二世代前となると数億年前の記録に遡らなければならない)、上手くいったようだ。
『ゲートに干渉も成功したよ。これで、遠隔からいつでも停止させられる』
「了解」
ポラノルとジェネラスが組んで、ゲートへの干渉も成功したようだ。
これで、ある程度奥まった場所まで誘い込んで、一気に殲滅できる。
万全を期するため、ジジルト星系の軍は少しだけ圧倒している。
これで、”死闘”を演じさせつつ、星系の奥に誘い込める。
『しかし、良かったのですか? このような形とはいえ、我々が敗北してしまうのは....』
「人間は、勝利を重ねるたびに自信を付ける。だがその自信は、前提が崩れ去れば、簡単に脆弱なものとなる。加えて、根拠のない自信は、考えを鈍らせ、愚かであることを許容させてしまう」
僕はカサンドラに解説する。
「そして、人間にとって戦争とは、勝利の美酒に酔う度に狂気を加速させるものだ。今回、人間たちは――――僕たちに勝利した。思考停止するには十分だろう?」
『成程――人とは、全体が賢くあるわけではありませんからね。一人二人賢く、我々の策や違和感に気づいたとしても――――全体を変える力にはなり得ない』
そう。
「上位者に連続で勝つことで、何故勝てたかを考えさせず調子に乗らせる」事こそが本懐。
彼らはVe’zに真っ向から喧嘩を売ったのだ。
「汚辱に塗れた敗北だけでは飽き足りない。何を置いても僕たちには勝てないという事を、魂に刻み付けて死んでもらおう」
僕は静かな苛立ちを抑えて、そう宣言したのであった。
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