113-未知なる深層
――――夜。
僕は一人で島に渡る。
見せたことはないが、Ve’z人のテクノロジーによって、僕は水面を歩く事が出来る。
原理としては、青くて丸い日本国民のアイドルの足とそう変わらない。
あの島は、海上からの侵入は想定されているものの、泳いだり走ってくる対象には対処できない。
体内の温度を水面と同様に変え、波に紛れてセンサーに映らなくなった僕は、捕捉不能の対象となり、容易に島に進入できた。
『”交替”だ』
「....失敗するな」
僕は目を閉じ、赤い目から元の虹目に戻して制御権を取り返す。
ここまでの操作は僕にはできない。
「....」
警備システムに引っかからないように、現地生物の生体パターンを模倣して四つん這いで駆け抜ける。
ハッキングは履歴が残るのでやりたくない。
遺跡に入れば警備システムがないのは確認しているから、そこまで行ければ全く問題なく侵入できるはずだ。
『エリアス様、そこから先は狼の居住エリアではありません。現地の猿の生体パターンを適用します』
「ああ」
シーシャが僕の身体に生体パターンをトレースし、センサーを誤認させる。
僕は樹の上に移動し、枝を伝って移動し始めた。
猿の動きとは身体の構造上少し異なるが、IDを偽装したうえで猿と同じ生体パターンを持った僕を、侵入者だとAIが判定するのは難しいだろう。
「着いた。シーシャ、アクセスを切れ」
『了解』
異世界にたどり着いた僕は、今度はエリアスに切り替えてセンサー類を突破する。
こちらはシステムとは隔離された設置型で、センサーに引っかかると警報が鳴る仕組みだ。
「地上はセンサーが多い。上から入る。アラタ」
エリアスは大きく跳躍して、センサーの少ない四階部分から中に入り込んだ。
直後に、制御権が僕に戻ってくる。
慎重に下まで降りる。
「何もないか」
センサーの類は遺跡の内部にはない。
地下まで降りていくと、照明のセンサーがあり、近づくと照明が付いた。
地下一階に見るべきものは何もなかった。
地下二階に降り、瓦礫を事前に装備してきた触手で退けながら、三階を目指す。
そして――――
「成程、これは......調査が進まないはずだ」
石のように思えるが、表面の分子構造が既存の石とは全く異なる――――つまり、何らかの合金というわけだが――――その扉がそこにあり、その手前に台座、表面に何らかのマークが掘られている。
何の端子もないが、これはマインドリンクの専用端子がこの台座であることを示していた。
すぐに手を当て、意識を接続する。
しばらく経って、ファイアウォールの代わりになる精神の壁が自動で開いた。
『――――――ようこそ、ジルガドヴォールカーライルクリファへ』
「こちらはVe’z。諸君らの言語を解さない文明の人間であるため、こちらと同調し言語の共有を求める」
『把握。言語情報をリンクする』
精神に向こうの言語情報が入り込んでくる。
素早くそれをエリガードに送信し、エリガードが自動でVe’zの言語と照らし合わせて解読する。
『ようこそ、第七百二カーライル基地へ』
「こちらはVe’z。諸君らの正体と、この設備の意義について問いたい。外は既に自然のままであり、諸君らの接続されていた文明の痕跡はない」
『状況は把握している。この星の衛星に隠されたサブコンピューターが、其方の乗艦らしき高度に隠蔽された艦船を確認している』
看破されていたか。
つまり、場合によっては僕らよりも遥かに進んだ文明を持っている可能性があるな。
『それは、どうやって?』
『ワープの際の僅かな航跡を探知した。我等の要求を聞いてもらうことが出来れば、その技術を供与してもいい』
『要求?』
要求を先に求めるという事は、他に手段がない場合に人が取る行動だ。
エクスティラノスなんかよりもはるかに優秀であろうこのAIがそう判断したということは、それ程切羽詰まっている、という認識でいいのだろうか?
迷う僕の前で、響く声は言った。
『我等カーライルの司令官である方が、地下にて眠っているが、管理用コンピュータが破損、起床させることができない。当機は、司令官に関連する生命維持装置やそれに類するものに対して造反防止の為干渉出来ない』
「その為に、侵入者を迎え入れると?」
『我らと同等、もしくは遥かに進んだ文明を持つであろう其方達に、理性的な判断を期待しての判断である』
つまり、招待するに値すると判断されたというわけか。
僕は頷き、目の前の扉が重厚な音と共に、消えるように開いたのを確認する。
「この奥に?」
『ここは昇降機の入り口となる。他の部分は司令官の判断でなければ見せることはできない』
「承知した」
僕は中へと入り、ゆっくりと下へ向けて降りていった。
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