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強風は羞恥心を連れていかない

「あー、えっと、い、妹?」


俺は正直に答えた。あの一件のことを知られたくないのでちょっと濁ってしまったが。


「あ、藤宮って妹居たんだ?」


「そう、実はね」


親戚、というのを説明するのが一番早かったとは思うが、血がつながっておらず、なのに一つ屋根の下で過ごした異性、というのはなんだかすごくいやらしい気がして説明するのを躊躇ってしまった。春宮には勘違いしてほしくなかったんだ。


しかし、それに対してさして興味はなかったようで春宮は、


「じゃあ、おやすみ」と言って部屋に帰ってしまった。なんだったんだろう。春宮の心情など知る由もない。


ずいぶん久しぶりの気がする我が家に辿り着いてベッドに横になった瞬間にすさまじい眠気に襲われた。なんだかすごく疲れた。着替えをする間もなく俺は眠りに落ちていった。枕の傍らで鳴り響くスマートフォンの通知に気付かないぐらいには。




翌朝。まだ寝足りない体をなんとか起こしながら時計を見る。10時。10時だ。今日は二限からだったのでまだ余裕はあるが、いかんせん体が重い。ベッドの上で二転三転しながらどうするか考える。学費を払ってもらってる立場で申し訳ないが、今日はサボってしまおうか。心身共に疲労を感じている。こういうときぐらい、いいよね。


スマートフォンを手に取ると充電が切れていることに気付いた。そういえば昨日は充電をする間もなく眠ってしまったんだっけ。なんなら風呂も入っていない。風呂に入りながら充電を待つとしますか。


充電コードを差して風呂に向かう。あーだめだ今日はもうサボってしまおう。そして風呂上りに二度寝と決め込もう。


バスタオルで髪を拭きながら浴室を出る。今日もあまり天気は良くないようだ。窓際からの光があまり無い。それでも一応カーテンを開けておこう。勢いよくカーテンを開くと、窓際すぐそこで千夏ちゃんがしゃがんでこちらを見ていた。


「うわっ!!!!!」


俺は突然の出来事に尻もちをつく。そりゃそうだ。カーテン開けたら誰かいるなんてそんなのホラー以外の何物でもない。もしこれが夜だったら俺はそのまま転げまわって抜けた腰をさすりながら玄関まで逃げまどっているところだ。


東はこちらを凝視している。なんで何も言わないんだよ。逆にこええよ。


窓を開けて東に声をかける。


「な、なにしてんの?」


「あ、いや別に。藤宮さんいるかなって」


「いるよ、なんか用事?」


「あ、いや夏美がさっき帰っちゃったので藤宮さんと久しぶりに遊ぼうかなって」


「なんでだよ。いつも俺が暇みたいじゃん」


「ちがうんですか?」


「暇だけども」


そこで思い出した。そうだ、ついでにお返しを渡そう。


「ちょうどよかった。ちょっと待っててくれる?」


「はい?」


俺は部屋に踵を返し、棚の中から小袋を取り出す。


「これ、ちょっと遅れちゃったけどホワイトデーのお返し」


「お、おー!ありがとうございます!」


東は袋を受け取りながら目を輝かせた。


「開けてもいいですか?」


「え、あ、うん、どうぞ」


プレゼントを目の前で開けられるのはちょっと気恥ずかしいものがあるな、と今回何度目か分からないことを思った。


「わぁ!すごい!なにこれ!」


それは猫のモチーフが彩られている小物入れだった。


「ちょっと貸して」


東から箱を受け取り、蓋の裏にあるネジを回す。有名な映画の音楽が電子音で流れてくる。


「これオルゴールなんだ。いいでしょ」


「すっごく可愛いです!!!」


なぜかこれを一目見た時、東の顔が浮かんだ。オルゴールを聞きながら料理をする姿が。


「お気に召すか分からないけど」


「大満足です!ありがとうございます!」


箱を四方から眺めながらニコニコとしている。本当に喜んでくれたみたいでよかった。


「こんな一気に二個も三個も貰っちゃって・・・」


ん?二個も三個も?


「え、なにか入ってた?」


考えられることがあるとするなら小物入れに何か入っていた可能性だ。俺が知らないだけですでに何か小物が入っていたのだろうか。


「いや違いますけど。まぁいいか」


東はすくっと立ちながら自分の部屋に向かった。


「改めてありがとうございます。大事にしますね」


ベランダに立ってその姿を見送る。これで全任務が達成された。


「そうだ、藤宮さん」


東は振り返って手で口元を抑えながらこう言った。


「服は着た方がいいですよ?」


そういえば風呂からベランダに直行したのだった。ちょうど吹いた強めの風に20数年共に過ごしてきた息子が揺れる。どうりで寒いと思った。


東を見送るよりも先に自分の部屋に飛び込む。二個も三個もってそういうことかよ!!!!!

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