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あまりにも長すぎる一日

「え、なんでここに引っ越してきたの?」


美冬の部屋の前で俺はそう聞いた。前に話した時は確かそんなことまでは言っていなかったはずだ。記憶を手繰り寄せると共に、あの時の唇の感触を思い出して俺は顔が熱くなるのを感じた。


「なんで顔赤くしてんの?」


俺の顔を覗き込みながら美冬はけらけらと人を馬鹿にするように笑う。


「うるさいなぁ」


反撃するように俺は美冬にそう返した。


「なんで引っ越してきたかって?ここが空いてたからかな」


聞くところによると、アパートの一階角部屋、春宮の下の部屋がちょうど空いていたそうだ。ちょうどもなにもなんかこのアパート、知り合い多すぎじゃない?


「前に言ったよね?知ってる人がいる方がいいって」


「まぁ確かに」


「それにすぐに同棲するんだからいいよね?」


「しねぇよ!!!!!」


思わず声が大きくなってしまった。本当にこいつといると調子が狂う。


「ついでに部屋の片づけ手伝ってくれない?」


「手伝いません」


「あ?」


「すぐに手伝わせていただきます」


俺は美冬には逆らえなかった。幼少期のトラウマというのもあるが、先日の「彼女になりにきた」という言葉。その真意は本人に確かめるまでもなく、おそらくそういうことなのだろう。あんなに嫌われていたのにどういう掌返しだ?と思いながらも結局それに答えが出ることは無かった。美冬も特に気にしていない様子で至っていつもと同じ態度だ。


「ちなみにどのへんまで進んでるんですか?」


日中は色々としていたので引っ越し業者がここに来ていたことなんて分からなかった。いつ来たかも分からないが、少なくとも一人で進めていたことだろう。


何も言わずに美冬が扉を開ける。そして勢いよく振り向いてこう言った。


「何も!!!!!」


開け放たれた扉から見える無数のダンボール群。少しだけ箱を開けた形跡はあるが、その中身を出すところまではいかなかったようだ。何もしてねぇじゃんそれもう。


「柚季がいるからいいかと思って」


いたずらっ子のように舌を出して謝る美冬。もうそれ古典的表現みたいになってるから辞めた方がいいよ。


「はー、でもすごいな。荷物の量。あの家にこんなに美冬の荷物あったの?」


無視をされ始めた時から美冬の部屋に入ることは無くなったが、確か部屋は8畳程度しかなかった気がする。この荷物から見るにそれ以上ある気がする。


「もちろんこっちで買ったものもあるよ。服とかも新調したし。それに女の子の荷物が多いとか当たり前だからそれ以上追及したらころ・・・」


「ようし、がんばるぞー!!!」


美冬の言葉を最後まで聞かずに作業へと入る。というか今って何時だっけ。そう思ってポケットから携帯を取り出すと翌日の日付になりそうになっていた。


「え、もうこんな時間!?」


「そうだよ、知らなかったの?」


いや知ってたのかよ。こんな時間から俺を働かせるつもりだったのかよ。明日も普通に大学があるんだぞ。正気か?


「とりあえず今日は布団だけ出しちゃおう。それで明日にしない?」


「まぁそうね。最もな意見だわ。やるわね」


「上司か」


「似たようなものよ」


「さいですか」


そのあと、二人で布団をしまったダンボール箱を探した。俺が来た時よりも散乱してしまったが、まぁいいだろう。なんとか寝具一式を揃えることができた。


「明日帰ったら連絡するから待っててくれ」


「りょうかーい」


「じゃあまた明日」


「うん、またね」


そう言って美冬の部屋を出た。


あぁ今日は本当に色々あった日だった。身体も心も疲れてしまった。早いとこ風呂に入って布団に潜ろう。そうだ、いつもシャワーのところ今日は湯船に浸かるというのはどうだろう。確かまだ入浴剤も残っていたはずだ。よっしゃ!おらワクワクしてきたぞ!


あんなに重かった足取りがこんなに軽くなるとは。お風呂ってすごい!だから好き!そう思いながら階段を登り終えると、


「誰?知り合い?」


と声をかけられた。そちらを向くと春宮が寝間着姿で立っていた。激動の一日はまだ終わらなかった。

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