陽キャは頼むから近付かないでくれ
よくよく思い返してみると、なんでそこまでの考えに至ったのか分からなかった。
そりゃ拒否もされる。俺はただのお隣さんであって、彼女の人生に関わろうとすることなど、おこがましい以外ありえない。ただ一目ぼれしてしまっただけだ。勝手に距離が近いなんて勘違いをしてしまっただけだ。接点など、持ってはいけなかったんだ。
頭の中ではそう結論付けていてもそこからの俺の生活はまぁそれはそれはひどく荒れた。
大学にも行かなくなり、バイトも辞め、家でずっと動画配信を見ているだけ。坂口は度々、俺に連絡をしてくれていたが、俺がそれに応えることはなかった。俺はめでたく、引きこもりとなったのだ。
秋も深まる頃、単位が心配になった俺はようやく大学に足を運んだ。
坂口がそんな俺を見つけ、話しかけてくる。
「失恋か?」
「いきなり確信をつくんじゃないよ」
「男がふさぎこむときはだいたい相場が決まってるんだよ」
「なんでも知ってるんだな」
「なんでもは知らないよ、知ってることだけ」
「堂々とぱくるなよ」
それから坂口はなんとか俺を元気づけようと色々と話をしてくれた。
知り合いが当て逃げされようになったところを追いかけて追いかけて運転手を殴り倒した話、川でダンボールに入った子猫が流されていて、こんなことほんとにあるんだと思いながらもなんとか助けた話、向いのアパートで女子大生が着替えているのを発見したが、自分の視力の悪さに憤った話。
話の真偽までは分からないが、楽しませようとする気持ちだけは伝わってきて嬉しくなる。
以前、坂口になぜ俺のような根暗と友達になってくれたのか、と聞いたことがあった。
「だってお前、捨てられた子犬みたいな顔してたから」
屈託のない笑顔で俺にそう言った坂口は、俺の背中を叩きながら続けて言った。
「そもそも友達になるのに理由なんかいる?実際問題、俺はお前と一緒にいて楽しいよ。楽しいから一緒にいるんだ。そこに理由付けなんていらないだろ」
俺はその言葉を聞いて少し泣いてしまった。涙がこぼれないように空を見上げる形で「そっか」と、かろうじて返事をした俺は先を行く坂口の背中めがけて、
「ありがとう」
と小声で告げた。
それが聞こえたのか、それとも聞こえないふりをしてくれたのか、坂口は俺を振り返りながら「なにか言ったか」とまた屈託のない笑顔でそう言うのであった。
「こういうときは飲もうぜ」
坂口は過去のことを思い出していた俺に向かってそう言った。
「女の子のことを忘れるには女の子と遊ぶしかないよ」
なんか前にも聞いたことがある気がする。
「いいよ、今はまだそんな気持ちになれん」
「うるせぇ、いこう!」
「だから堂々とぱくんなって」
そのまま坂口に押し切られる形で、さっそくその晩にちょっとした飲み会が開かれることになった。
待ち合わせは駅に18時半。
大学が終わった後、俺は家に帰って一応シャワーを浴び、一番自信のある服に身を包み、駅で坂口を待った。短絡的、と言われればそうかもしれないが、男なんてこんなものだ。期待しないわけはない。
程なくして、坂口ともう一人知らない男が現れた。これでもかというぐらい髪を金髪にして、ライオンを彷彿とされるほどだった。
「おう、藤宮、待ったか」
「いや今来たとこ」
カップルかよ。
「うぇーい!藤宮ちゃん、アガってるぅ?」
慣れ慣れしいなこいつ。
「藤宮、紹介する。こいつは俺と同じサークルの赤坂。まぁ見てくれ通りなやつだ」
「どぅもー!髪は金だけど、名前は赤坂でぇす!リスペクトしているお笑い芸人はEXITでぇす!よろしくぅ!」
だろうな、と思った。
「俺は藤宮柚季っていいます。今日はよろしくお願いします」
「藤宮ちゃん、かしこまらなくていいよぅ!もう俺たちダチっしょ!」
「うっざ」
「えぇ?なんか言ったぁ?」
やべ、声に出てた。
「まぁ時間も時間だし、そろそろ行こうか」
「うぇいうぇーい」
坂口を先頭に歩き出す。
俺は殿をキープしつつ、前の2人を見る。ほんとに坂口は顔が広い。こんなやつ(失礼)とも友達なんだな、やっぱり俺はその中の一人にしかなれないんだな。
居酒屋、を想像していたが、なんだよちょっとおしゃれなバーじゃねぇかよ、ふざけんな坂口。事前に言っとけ。
入り口にはこれまた知らない女の子が立っている。
「坂口くーん、おつかれー!もうみんな集まってるよー!」
参加者の一人のようだ。
「ありがとうー、いまいくー!」
と返事をする坂口に続いて店内へと入る。
案内されたテーブル席に向かうと、例のお隣さんがそこに座っていた。