調子に乗るとろくなことがない
そして夜である。
無事に春宮にお返しを渡せた俺は誰がどこから見ても上機嫌だった。あんなに喜んでくれたんだ。こうなってしまうのも仕方ない。鼻歌を歌いながら部屋の中を歩き回る。今日のご飯はなににしよう。久しぶりに酒を煽るのも悪くない。待てよ、デザートというのも悪くない。コンビニでちょっとお高めのデザートを買って一人祝福と洒落こもう。
寝巻から外生きの格好へ。と言ってもせいぜい近くのコンビニまでだ。ジャージに着替える程度だが。そういえば寝巻の定義ってなんだろう。俺なんてのは部屋に一人しかいないことをいいことにトランクス一枚とかはざらだが世の意識高い系の人たちはちゃんとしたパジャマというものを着ているのだろうか。逆に言えば、俺もパジャマを着ることで意識高い系になれたりするんだろうか。なれるわけがない。そんなことでなれるなら世のお父さんはみんな意識高い系だろう。
パンツの話がでたのでもう一つ。俺は物心ついた時からトランクス派だった。それこそ意識高い系男子なんてのはボクサーパンツが多いと聞く。現に俺も挑戦したことはあったが、肌にぴったりとつくそれは不快以外の何物でもなかった。何より布で息子が密閉されるものだから蒸れることこの上ない。以前、実家にいたときに自分は寒暖差アレルギーだと知った。寒い所からいきなり温かい所へ行くと体がかゆくなるというものだ。そのせいで息子の周りもかゆくなり、もう通気性のよいトランクスしか履けなくなったのだ。そんな自己都合な理由で俺はボクサーパンツを嫌っているし、そんなものを履いてるやつらが嫌いだった。なんの話だこれ。
そんなことを考えながら足はコンビニへと着いていた。ほんとにコンビニって最高だよな。いついかなるときでも店が開いてるんだもんな。ありがてぇ。コンビニ店員に感謝。
そもそも甘いものは苦手なので普段、こんなコンビニスイーツなんてものは買わないのだが、今日ぐらいはいいだろう。だってお祝いなんだから。
その中で馬鹿みたいにでかいプリンを見つけた。なんだこれ。一人で食べきれるものなのか。でも挑戦はしてみたい。そのプリンとコーヒーゼリーを買ってみた。プリンの甘さをコーヒーゼリーで緩和しようという作戦だ。それならプリンなんて買わなきゃいいのに。そんな矛盾を拳でぼこぼこにしながら店を出る。今日はパーティだ。
アパートの前に着くと、すれ違いでアパートから出てくる人影があった。街灯の光が届かず顔までは認識できない。それに俺とは反対方向に歩いて行ったのですぐに背中しか見えなくなった。ただ、身長とその雰囲気から東に見えなくもなかった。落ち込んでいるように歩いていたし、少し心配だ。ただ、普通に下の階の住人かもしれない。東だと思って追いかけて別人だった時の気まずさは計り知れないことだろう。
でも残念ながら今の俺はすこぶるテンションが高かった。確定要素は一切なかった。それに東夏美という存在。そんなものに気付きもしないまま俺はその人影を追った。声をかけようと思ったのだ。少し小走りで追う。脳内ではご機嫌なBGMが鳴り響く。すぐに追いついてその肩に手を置こうとした時、異常に気付いた。これは、泣いている、のか?
声を押し殺すようなその泣き声に少し怯む。伸ばしかけた手はそのまま空中を掴んだまま、動きを止める。その影はゆっくりと歩みを進めた。奥から一台の車が走ってきてその影を照らす。やはり東に似ている。その影は前を向いておらず、ずっと下を向いていた。だから目の前の電信柱に気付かなかった。ゴッという鈍い音がこちらまで届いたと思ったら、おもむろにその場に座り込んでしまった。痛かったのだろうか。いや痛かっただろうな。こっちまで音が聞こえたもん。
その丸くなっている背中に近付く。さっきまで微かにしか聞こえなかった泣き声はボリュームのつまみをゆっくりひねるように大きくなっていった。その声で確信する。あれは東だ。
小走りで近付く。
「大丈夫!?」
肩に手を置く。びくっとその体が震え、ゆっくりと振り向く。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「あ、変態の人だ」
東夏美の方かよ!!!!!!!!!!




