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コミュ障は戸惑う

不可抗力とはいえ、春宮の裸を見てしまった。心臓は高鳴るのを辞めないし、息子は今も膨張し続けている。このタイミングで春宮に見つかろうものなら言い訳のしようもない。あなたのせいでこうなりました!責任取ってください!からのラブソウスイートな展開は同人誌の中ではありえるのかもしれないが、ところがどっこいこれは現実。反省の気持ちから俺は正座で春宮を待つことにした。


なおも耳に届くシャワーの音。だめだ、思い出してしまう。これではなんのために正座をしているのか分からない。そうだ、瞑想だ。瞑想をするんだ。以前、というか小学生の時に地域の行事で寺に一泊したことがあっただろ、座禅を組まされたはずだ。あれを思い出すんだ。正確には瞑想とは言わないかもしれないが、この際どちらでもいい。この心臓と股間を鎮めさせることができればなんでもいいのだ。


座禅を組んで目をつぶる。そして深い深呼吸。なるほど、これはいいかもしれない。どんどん邪な気持ちが体から抜けていくのが分かる。よしよし、収まってきた。この調子だ。ん?何か聞こえる。


しまった、視界を閉じたことで聴覚が余計研ぎ澄まされてしまった。さっきよりもクリアに聞こえるシャワーの音。瞼の裏に見える春宮の裸。また心臓は高鳴り、股間に血が集まっていく。へへっ、これだから男ってのは。


よし、逃げよう。この場から逃げてしまおう。いやでもシャワーから出た時に家主がいなくなってたら春宮もさぞ混乱することだろう。あ、ベランダだ。窓を閉めてカーテンは開けて室内から見えるようにしておけば音は聞こえないし、春宮はすぐに発見できるし、どちらにしても良いことだ。よし、そうしよう。


すぐさまベランダへ躍り出ると、東がそこにいた。いや、東か?さっきの東夏美の件もあるからな、どちらか分からないぞ。東とは半年ほどの付き合いだが、それでも東千夏と東夏美は瓜二つだった。一卵性というんだっけか。少なくともぱっと見では区別がつかない。


「あ、藤宮さん・・・」


俺の名前を知っている。じゃあ東の方か。


「お、おぉ、東。どうしたのこんなところで。珍しいね」


「私だって黄昏たいときはあるんですよ」


そんなこと言ったら俺がいつも黄昏てるみたいじゃないか。


「そうなんだ」


そのまま突っ立っているのも不自然なので先客と同じようにベランダの縁に腕を乗せる。


「あれ、妹さんは?」


「夏美ですか?今、買い物に行ってくれてます」


「そっか」


心なしか東の元気が無いように見える。いつもの「ひゃはー!」という感じが一切ない。


「なんか元気、無い?」


「あぁ、えっと、それはですね・・・」


東が言い淀るのも珍しい。俺は黙って次の言葉を待った。


「まぁ、どうせ分かることだし、言っちゃうか・・・」


東はそう小声で言うと、静かに話し始めた。


「以前、クリスマスの時にちらっと話しましたっけ、よく家族で来ていたって」


言っていた。東は地元がこっちだから家族とはいつでも食事をしに来れるだろう。なのに『よく家族と来ていた』という言い回しをしていた。それは『以前は来ていたが、今はもう来ていない』ということだ。成長するにつれて、家族との時間は減るだろう、友人といた方が楽しいことだってある。そうして家族と疎遠になったがゆえのことだと思っていたが、そういえばそういう東の顔は寂し気だったっけ。


「でも数年前から行くのを辞めました。今までは記念日とかにはしょっちゅう行っていたんですけど。あの時から、もう・・・」


また東は顔を伏せて口を噤んでしまった。


「言いたくないことは言わなくていいんだよ。なにか辛いことがあったんでしょ?大丈夫だよ、俺は待てるよ。いつか、言える時が来たら、また教えてくれる?」


俺はできるだけ優しい口調で東を励ました。


「藤宮さん・・・」


そう言って顔を上げた東の目は潤んでいるように見えた。


「藤宮、ここにいたの。寝巻ありがとう。洗って返すか・・・」


急に開いた窓から春宮が顔を出してきた。風呂からあがったらしい。俺と東を交互に見て、少し「やばい」という顔をした。


東も俺と春宮を交互に見て、おそらくひどい勘違いをした。


「え?え?藤宮さんと春宮さんってもう、そんな・・・」


顔を赤くしながら後ずさる東。


「違う!東!誤解なんだ!!!」


「浮気する男の一言目だ!!!!」


「ごもっとも!!!いやでも違うんだ!!!マジで!!!」


「うるさい!藤宮さんの馬鹿!!もう知らない!!!」


大きな音を立てながら東は部屋に引っ込んでしまった。


「あー・・・タイミング、間違えちゃった?」


「いや、えっと、うん、そうかも」


どうしよう。

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