イマジナリーフレンド
え?え?どういうこと?
うちに泊まる?なぜ?隣なのに?わざわざうちに泊まる必要なんてないだろ。なんだ、何か理由があるのか?そもそもなんで俺の部屋に?もっとこうあるだろ、友達の家とか。というかそもそも東の部屋もあるじゃないか。なんでうちなんだおい。
そこでふと春宮の後ろに人影があることに気付いた。その姿は、俺だった。
『いいじゃん、泊めてやれよ。もしかしたら一発ヤレちゃうかもしれないぜ』
聞いたことがある。ドッペルゲンガーとかいうやつだ。自分と同じ姿をしており、見たら数日後に死ぬとかなんとか。待て待て、もう一人いるぞ?
『やめよう。一人の女の子だし、嫁入り前だし、というか付き合ってもいないのに家に泊めるとかだめだよ!』
春宮の前でそんな相談をするな。春宮に聞こえるだろ。
そんな春宮には言葉は届いていないようで俺の反応を確かめるような顔をしている。ん?こいつ瞬きをしていない。周りを見渡してみても目の前の道路を自転車で走っている老人も止まってしまっている。これはもしかして、時間が止まっているのか?
『いやいやあっちから誘って来てるんだし、もうそういうことだろ?』
『だめだってば!』
その間にも目の前の俺によく似たそいつらは討論を続けている。よく見ると、両者とも羽根が生えているのが見えた。下劣なことを言っているそいつには黒い翼。そいつの言うことを必死に止めているそいつは白い翼。もしかして、こいつらって、俺の中の天使と悪魔ってこと・・・?
『おい、俺よ。お前もそう思ってるんだろ?』
『違うよね?俺はそんなことできないもんね?』
天使と悪魔はそう言いながら俺に詰め寄ってくる。これ、もしかしてイマジナリーフレンドってやつ・・・?
度々出てきていたそいつらはついに実体を伴って俺の前に出てきた。最悪な初登場だ。
『童貞を捨てるチャンスだぜ。昔の人も言ってただろ?据え膳食わぬは男の恥ってさ』
『でもそういうのはちゃんと好きな人同士でないと!俺が好きだってことは知ってるけど春宮が好きかどうかなんて分からないじゃないか!』
『そうだ、これを機に告白しちゃえよ。好きだから一発ヤラせてくださいってなぁ!!』
『なんてことを!そんなのヤリチンと変わらないじゃないか!そんな初体験はだめだよ!』
天使と悪魔の言い合いは続く。本体である俺はただそれを見ていることしかできなかった。
『そもそもよ、恥ずかしくないのか?ここまでお膳立てさせられといて逃げるなんてよ、男としてさあ』
『でも状況っていうものがあるじゃん!ここじゃないって!』
『男の部屋に泊めてなんてよっぽどの勇気がないと言えないもんだぜ。彼女の勇気は、じゃあ無視してもいいってことなんだな?』
『そ、それは、また話が違うというか・・・』
やばい、また天使が劣勢だ。
『それによ、こんなに最高な状態で一切、手をつけず、一晩泊めて返すっていうのもそれはそれで紳士的だとか言って評価が上がるもんだぜ』
『ま、まぁ手を出さないのであれば・・・』
論点をすり替えられたことで天使が負けそうになっている。悔しい。
『手を出す出さない以前にさ、隣人としての優しさ、見せようぜ』
『そうだね!俺もそう思うよ!隣人だからね!』
『『よし、じゃあ泊めてあげよう!優しさでね!』』
うちはほんとに天使が弱い。悪魔が『あいつ(天使)は馬鹿だな。家に上げてしまえばこっちのものなのに』と最後に言うのを俺は聞こえないふりをして春宮に向き直る。時間もちょうど正常に流れ始めた。
「じゃ、じゃあ、どうぞ」
「ほんと!?ありがとう!うれしい!おじゃましまぁす」
一生で一番眠れない夜が始まる。




