友人がいなくなった日
東へのお返しを諦めて俺は部屋で一人、ぼーっとしていた。
時刻はあれから数時間が経過し、すでに17時を回ろうとしていた。コミュ障というものは出鼻をくじかれるともはや勇気が出ない生き物だ。残るは春宮のみとなったが、依然として俺は動けずにいたのだった。
「なんかもうあっちから受け取りにきてくんねぇかなぁ」
待ちの態勢を決め込んだが、やはり事態は好転することはない。自分から動かなければ。ようやく重い腰を上げ、俺はまたベランダに立った。何度もここで待ったのだ、今回も会えるかもしれない。3月も中旬になったとはいえ、まだ肌寒い日は続く。油断してまた風邪でもひいた日にはまた迷惑をかけるかもしれない。ほどほどにして戻ろう。
来ない。来ないわ。全然来ないわ。
室内灯はついているから部屋にいるにはいる。まぁでもそうだよね、そんな頻繁に出てこないよね人って。カーテンを閉められているので室内の様子は分からない。でも何をしているか気になる。少しだけ、少しだけだから、先っちょだけだから!!
そんなことを思いながら俺は春宮の部屋に近付いた。話し声だろうか、声が聞こえてきた。話の内容までは分からないが、誰か遊びに来ているのだろうか。まぁあれだけ美人なのだからもしかしたら彼氏か誰かかもしれない。
その時、俺の胸に針を刺されたような痛みがあった。自分でその考えを考慮しておきながら『彼氏』という言葉だけでここまでダメージを負うのか。俺はもうだめだ。できれば俺の亡骸は丘の上に咲く桜の木の下に埋めてくれ。
頭を振り払い、気持ちをリセットする。いやそんなことでリセットできるわけがないだろ。そんなもん、漫画やアニメの世界だけだ。無性に誰かと話したい気分になり、携帯でトークアプリを開く。俺のこんな馬鹿な話を聞いてくれる奴と言えば、そう、坂口だ。すぐさま文字を打ち込む。
『すまん、今いいか?』
返信はすぐに来た。
『どうした?』
『話を聞いてもらいたいんだが』
友人というものはやはりいいものだ。誰かと話したい気持ちになった時にすぐそばにいてくれる。ちゃんと話を聞いてくれる。ありがたいものだ。友人なんてそんなに数はいらない。少しでいいんだ。仲の良い友人が少しだけでもいれば世界は変わる。量より質なのだ。親友、坂口よ。俺はお前がいてくれて嬉しいよ。
『わりぃ、今彼女といるから無理だわ。明日聞かせてくれ』
へぇ、親友よりも彼女をとるんだ。そうなんだ、なるほどね。俺の感謝の気持ち返せよ。
いやいや待って待って、まだ俺にも友人はいる。親友と言えるほどまだ仲は発達していないが、それでも話ぐらいは聞いてくれるだろう。そう、赤坂。お前だ。やはり俺を救ってくれるのはお前しかいない。あんな親友よりも彼女を優先するようなやつなんてこちらから願い下げだ。お前を親友に格上げしてやろう、喜べ赤坂。
『赤坂、話を聞いてくれないか』
赤坂から返信はすぐに来た。
『なんだ?』
『文字じゃちょっと伝わらないから電話してもいいか?』
『今ちょっと家族で出かけてるから無理だわ。すまん』
ほう、友人よりも家族をとるのか。なるほどなるほど。
いや当たり前か?そりゃ彼女と家族って最優先事項だもん。そりゃそう、仕方ない、彼らが悪いんじゃない。俺が少し独りよがりになってしまっただけ。もう友達なんて辞めてやるんだからね。いやもうほんと。全然泣いてないし。
そんなこと言いながらちっぽけな自尊心を守っていると、急に部屋の呼び鈴が鳴った。しかもそれは一回ではなく連打だ。絶えぬこと無く鳴り響いている。いや誰だ。いたずらか?宅配便を頼んだ覚えも無いし、友人が訪ねてくる予定も無い。いや友人なんて今しがた誰もいなくなったところだ。俺を訪ねてくる人など皆目見当もつかないが。
その間にも呼び鈴は鳴り続けている。連続で鳴らされるそれに辟易としながらインターフォンカメラを見た。そこには何か怯えた表情で呼び鈴を連打する春宮の姿が映っていた。今まで見たことがないような春宮の表情に緊急性を感じた俺はすぐさま玄関を開けた。
「どうしたの!?」
「急にごめん!!!今夜泊まらせてくれないかな!?」
「・・・え?」




