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決戦準備

あんなに喧嘩をしていた二人も、店を出るころには「美味しかったねー」と満面の笑みで言い合うくらいには仲が修復されていた。これが糖質の魔術か。


「じゃあ、帰ります?」


もう満足、あとは家に帰って寝るだけだと言わんばかりに目をとろんとさせた東がそう提案してきたが、断った。知ってるか?ホワイトデーまであと三日しかないんだぜ。


「いや俺はちょっと用事があるから」


そう言って彼女たちとは店の前で別れた。後ろ手に「春宮さん、そこのカフェ知ってます?プリンが美味しいんですよ」「え、ほんと?いくいく!」という楽しそうな声が聞こえた。いやどれだけ食うんだよマジで。


雑貨屋がひしめく商店街。俺はまたしてもここに立っていた。だって他に買えるところなんて知らないんだもん!!!


前は確かこの辺で東・秋野コンビに出くわしたんだっけ、と思いながら練り歩く。あの時も確かケーキを食べに行ったんだ。順番は違えど、やってることはいつもだいたい同じなんだな。


すでにざっくりとプレゼントの内容は決めてある。あとはそれに関連するもので直感で選んでいこう。


ある雑貨屋の前で足が止まる。猫グッズを主に展開する雑貨屋だった。美冬の家でも猫を飼っていたので俺も知らずの内に猫に魅了されていた。それからは暇があれば動画サイトで猫の動画を見続けているし、うちのアパートがペット禁止でなければ即刻、飼っていたほどだ。貧乏学生なのでそこまで猫にお金をかけられないといえばそうだが、最終的には俺の食費を削るので問題は無し。猫の奴隷として生きていくことこそが喜びなのだ。


そんなことを考えながら物色していると、奥から店員が出てきて遠巻きにこちらを見ている。セレクトショップじゃあるまいし、こんな雑貨で店員に話しかけられることはないと思うが、店員に話しかけられたら二度とその店には行かないを人生のモットーにしている俺だ。扱いには注意するんだな。


視界の端で店員の姿を捉えながら、一つの商品を手に取る。春宮には猫的なものをあげようと決めていた。漠然と春宮は猫という図式が俺の中で出来上がっていたからだ。それは第一印象のせいもあったのだろう。今は当時とは裏腹に懐いて?くれているが。


これは春宮に似合うだろうか、とそれを四方八方から眺めていると、急に店員がこちらに近付いてきた。この速度はやばい、話しかけられるやつだ。すぐさまこの商品を棚に戻して逃げよう。そう思ったのもつかの間、店員の歩く速度の方が早かった。あっけなく俺は店員に捕まることになるのだが、その口からは予想だにしていなかった言葉が出てきた。


「あ、やっぱり藤宮くんじゃん」


え?知り合い?


見ようとしなかった店員の顔をよく見ると、坂口の彼女である遠藤さんその人だった。三度目の登場である。俺はほっと胸を撫でおろした。店員への返しを考えると胃が痛くなるほどに思いつかないが、知り合いならなんとでもなる。


「あ、あぁ、遠藤さんか」


「なんだとはなによ、失礼ね」


「いやなんだとは言ってないよ」


この商店街に来ると、誰かしら知り合いに会う。今まではこんなこと無かったが、一時期から急激に知り合いに会う確率が高くなった。それはきっと俺の交友関係が広がったからだと思う。今まで意識していなかったものがそれを知ったことにより目につくようになるあの現象と一緒だ。たぶん、きっと。


「こんなところでなにしてるの?」


「私?だってここ私の家だし」


「え、そうなんだ」


「手伝いすると小遣いもらえるからさー」


そう言って遠藤さんはくるりと回った。猫の刺繡が施されたエプロンが揺れる。


「藤宮くんはホワイトデーのお返しかい?」


「な、なんでわかるの!?」


と発言してから気付いた。遠藤さんに知らないことなんて、おそらく無い。


「そりゃ分かるさ。男の子一人で入店してくるなんて大概それでしょ。と、ここで藤宮くんに一個提案が」


「な、なに?」


前回の騒動があってからは俺は遠藤さんに対して少し恐れの感情を抱いていた、弱みを握られたらなにをされるか分かったものではない。


「うちで買ってくれるならサービスで彼女たちの好きそうなものを一緒に選んであげよう!」


それはありがたい。情報通の遠藤さんのことだ。女性という立場もあり、プレゼント選びにこれほどうってつけな人はいない。


でも何か下心があるのでは、と勘繰ってしまうのはもはや必然である。


「・・・本心は?」


「私が店番しているときに売り上げがあると私のお小遣いが増える」


正直だった。


ただ、その見返りを加味しても俺にデメリットは無い。素直に好意を受け取ることにしよう。


「じゃあ、お願いしようかな」


「毎度ありぃ!」


それから二人で「あーでもない」「こーでもない」と話し合いをしながら店内を探した。少し時間はかかったが、よいプレゼントが買えたと思う。お礼をして店を出た。俺の背中に、


「がんばれよー」


と遠藤さんの声が届いた。頑張る。頑張ろう。


そしてホワイトデーがやってくる。

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