責任の重さは人それぞれ
完全にやらかしました。いやもう全然悪気なんてなかったんですよ。なんかこう手が勝手にっていうか?正直言って当時のことはあんまり覚えてないんですよね。ほら、俺ってキレると記憶なくなるタイウだし???
そんなことを言って場を紛らわせたところで事態は好転するはずも無かった。俺はこれからどんな顔をして東に会えばいいんだ。それに美冬に関してもそうだ。いつからだ?いつから美冬は俺のことが好きだったんだ?じゃあ今までのあの態度はなんだったんだ?
男とは悲しい生き物である。今まで何も意識していなかった人が自分のことを好きだという事実が分かった瞬間にその人のことを意識してしまう。なんならいや実は俺も、みたいな気持ちになってしまうから不思議だ。
俺はベッドに寝転びながら天井を見ながらぼやいた。
「知らない、天井だ」
いや知ってる。こちらに越してからもう半年になる。ずいぶんもう見知った天井だ。ただ言ってみたかっただけだ。そう、そういうときがあるんだ男って。
そんなアニメの真似事をしていたら枕元のスマホがわずかに振動した。こういう描写はけっこう多いが、大学へ行っていないときはだいたいベッドの上で生活しているのだから仕方ない。
手に取ると、メッセージを受信していた。開く。
『あのあと、ちゃんと帰れた?』
美冬からだった。こちとら二日寝込んでいるのであのあとすぐのメッセージだとしたら遅すぎるぐらいだが、返信をする。
『帰れたよ。そっちは?』
間違ってもそのあとに関しては何も言わない。幻滅されるのはごめんだ。
『そうなんだ。今日とかなにしてんの?』
今日は日曜日だ。予定があるのかと問われれば無いのだが。
『ちょっと具合悪くて寝込んでるんだ』
嘘をつくことにした。人と会える精神状態ではない。
『そっか。風邪でもひいた?寒かったもんね』
いやに優しいな。これが好きな人に対する態度という事か?
『いや大丈夫。そこまでじゃないんだ』
『そうなんだ。お大事にね』
美冬はまだこちらにいるのか、少し気になったがメッセージはそこで終わったので聞けず仕舞いとなった。
スマホがそれ以上、振動することはなかったので布団の上にスマホを投げる。少しだけ気晴らしにはなったが、依然として俺の脳内では先日の醜態が繰り広げられていた。もうお天道様の下を歩けないよ。
頭だけを動かしてベランダを向く。あぁ、今日もいい天気だ。少し風があるのかな。近所に生えている大きな木が葉を揺らしている。と、そこで、
ベランダからこちらを覗き込んでいる東と目が合った。
びくっと体全体が揺れた。驚いて声も出ないとはこのことか。東はもじもじとこちらを見ている。頬も少し赤らんでいるようだ。目が合ったことに気付いた東は慌てふためくように辺りを見回したあと、すぐさま奥に引っ込んでしまった。
なんだったんだ。よりによって今一番会いたくないやつが会いに来るとは。ここが地獄か。
やっぱり謝らないといけないよなぁ。こうして以前と変わらずに訪問してくれるということはそれほど心証は悪くはなっていないと伺える。でもこの関係を続けていく以上、良好な状態を維持しておきたい。
視線を外さずに東の再登場を待つ。少ししてまた東の頭が窓越しに現れた。ゆっくりとこちらを覗き込んでくるが、しかし俺がずっと見ているものだから東はやはりまた奥に引っ込んでしまうのだった。
ワニワニパニックじゃないんだから。
意を決して立ち上がり、ベランダへ向かう。勢いよく引き戸を開けると、隅で小さくなっている東がすぐに視界に入った。ぴゃっと小さく悲鳴をあげた東がおそるおそるこちらを見上げる。しゃがみこんで東と同じ目線になる。
「なに、してるの?」
東は真っすぐこちらを見ようともせず、もじもじとしている。あんなに活発だった子がこんなに言い淀んでいるということはよっぽどなことなのだろう。俺は東が喋るまで少し待った。
そして、東はようやく口を開いた。
「・・・りましたよね」
ん?声が小さすぎて前半部分が全く聞き取れなかった。
「なんて?」
耳を東へ近づける。東は顔を伏せたままもう一度、言った。
「・・・ってください」
まだ聞き取りにくい。俺は東へさらに近付く。
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
東は勢いよく顔をこちらに向けた。
「おっぱい、触りましたよね!?責任、とってください!」
おっと。
そして差し出される紙。それは、まさかの婚姻届けだった。




