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予想だにしない来訪

眼前に広がる生クリームの洪水に俺は辟易としていた。


「クレープばっかりピックアップされてるからクレープしか無いのかなって思ってたらケーキもあるんですね!!」


東は自分が注文したケーキを見て目を輝かせている。あろうことか、東が注文したそれはホールケーキだった。およそ一人分とは思えないその風貌に俺はちょっと引いていた。見てるだけで胸焼けしてくる。それに関して秋野が一言も言わない所を見るとこれが東の『普通』なのだろう。


「んぅー!おいしっ」


フォークを生クリームに突き刺した東は大口を開けてそれにかぶりついた。この世の幸せはここにあると言わんばかりな顔だ。


「うん、おいしい」


秋野もケーキを口に運びながらそう言う。秋野も秋野でケーキを2ピース注文していた。ちなみに注文したのはチョコレートケーキとショートケーキだ。味の違うその二つを交互に食べながら、飽きないような工夫をしている。それに反して東はホールケーキだから当たり前だが、ショートケーキ一色だった。目を向けるだけで胸の辺りがもやもやとするのですぐに背けた。


「せっかくなんだから藤宮さんも食べればいいのにぃ」


東は口いっぱいに咀嚼しながら俺に顔を向けた。いっぱい食べる君が好き、というCMソングが頭に浮かぶ。女の子が美味しそうに食事をする光景は確かに可愛らしいものだが、東のそれはただの大食い選手にしか見えなかったのでちょっと笑った。


「俺は生クリームは苦手なんだよ」


ちなみに俺はホットコーヒー一杯だった。こんなスイーツ店のコーヒーだ。そこまで味が良いとは思えなかったが、今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しかった。それは目の前で美味しそうに生クリームを頬張る美少女たちを目の当たりにしているからなのか、それとも純粋にコーヒーが美味いのか、理由は分からなかったが、前者だと思うことにした。こんな機会は二度と無いのかもしれないし。


「なに笑ってんですか、気持ち悪い」


「急にひどくない?」


「何も無いのに笑ってる人の方がひどいです」


「それはそう」


せっかく俺が余韻に浸っているというのにこの言い草である。悔しいので言い返すことにした。


「そんなに食べて太ったりしないの?」


てっきり、「きーっ!」と憤慨しながら「なんでこんなに美味しいものを食べている時にそんなことを言うんですか!磔にしますよ!?」とキリストを同じ目に合わせられるのかと思っていたが、東は普通の顔で、


「あー、私太らないんですよね、どれだけ食べても」


と言った。なるほど、栄養が全部おっぱいに行ってるからなのかな、と思わず口に出そうなところをすんでのところで踏みとどまる。ぎりぎりだった。


店内の女性の目が一斉にこちらを向いた気がしたが、東はそれを知ってか知らずか話を続ける。


「だからこうやっていろんな所でたくさん食べてみるんですけど、どれもいまいち効果がないんですよねぇ。まぁでも今は開き直ってますけど」


そう言いながら東はまたフォークをケーキに突き刺す。気付けばすでにそれは最初の三分の一程になっていた。食べるペースも早い。


「羨ましい体質なことで」


「そんなことないですよ、太れないっていうのが今の悩みですから」


やめろ東、それ以上喋ると周りの女性たちから虐殺されかねないぞ。ほらみんなすごい目してる。


「まぁ大して悩んではいないんですけどね!!!」


がっはっはと笑う東。周りの視線がさらに痛くなる。それに耐えられなくなった俺は店のすりガラスから外を見た。店の行列はさらに伸びていて隣の店まで続いている。すごい人気なんだなこの店は。まぁコーヒーも美味い、ケーキも美味しそうとくれば人気が出るのは当たり前か。


行列から目を離し、行き交う人たちを眺めているとそこで一人の女性と目が合った。目が合ったといってもただ漠然とこちらを見ていただけかもしれないし、ここまで長い行列だ、興味でただ見ただけかもしれない。しかし、その杞憂とは裏腹にその女性はこちらに歩み寄ってきた。


え、俺?違うよな、ちょっと目が悪いから近付いてきて見てるだけだよな、俺じゃないよな。


その顔はマスクと帽子でよく見えない。俺の視力が悪いからというのもあるかもしれないが、知り合いかどうかすら分からない。その正体はすりガラス一枚隔てた店頭までその女性が近付いてきて初めて分かった。


前提として、この店内は柔らかな音楽が流れており客同士の談笑もある。それでもその女性から発せられた声はその周辺一帯にこだますることになった。


「あーーーーー!!!!!!」


俺はすぐに目を伏せる。知り合いだと思われたくなかったからだ。その女性は足早に店内に入ってきたかと思ったら、すぐに俺の隣に腰を降ろした。そしてマスクと帽子を外し、何事かときょとんとしている東と秋野に向かい、俺を指さしながらこう宣言した。


「初めまして!橘美冬です!こいつの彼女やってまーす!」


あんなに和やかに進んでいた食事が嘘のように凍り付いた。

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