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両手に生クリーム

西連寺夢子からヒントを貰った俺は素直に街中へ繰り出していた。アパートから十数分歩けば着いてしまうショッピングモールではなく。街中まで。オフィスビルが混在するため、人が多く、あまり来たくはないのだが仕方ない。まだホワイトデーまでは時間はあるが、今のうちに目星をつけておこう。


電車を降りると、駅のホームはやはり人でごった返していた。だから来たくなかったんだと速足で通り抜ける。あまり人と関わらないように生きてきたためか、人込みをすり抜ける技術だけは上達した。それがよいことなのか、悪いことなのか、分からないけど良いことだと思おう。


目的の店があるわけではなかったが、とりあえずアーケードまで繰り出してみた。ここなら雑貨屋は目移りするほどの数もあるし、お菓子屋だってある。ここでなら彼女たちに似合うものが見つかるだろう。


適当にぶらぶらとしながら店を覗く。店頭にある猫グッズを手に取り、ふむふむと頷いていると奥から店員がこちらに近付いてくるのを視界の端で捉えた。それを理解した瞬間に店を離れる。店員に話しかけられるのは嫌いだった。言葉巧みな営業トークで要りもしないものを買わされた経験があるからだ。人と話すのは上手くならなかったが、人を避ける技術だけは上がった。人込みを避ける技術もそうだ。俺は根本的に人と関わるのを避けた。


手当たり次第、といった具合で次の店へ歩く。事前に脳内地図を更新してきたおかげで店の配置はばっちりだ。その店先まで来たところで俺は何者かに後ろから押されてつんのめることになった。しまった。誰かにぶつかってしまったのか、確かに人を避ける技術は上手くなったが、さすがに背中に目はついていない。それはさすがに避けられないぞ。


急いで振り向くと、そこには見知った顔が二つあった。東と秋野だった。


「藤宮さん、こんにちわ!!!!!!」


「声でっか」


秋野は東の後ろでぺこっとお辞儀をした。この子たち喧嘩してるらしかったけど仲直りしたのか?


「なにしてたんですか藤宮さん!!!!!」


「声のボリューム考えて」


「これだけ人が多いと声が聞こえないかなと思って!!!!!」


「ボリュームのつまみ壊れた?アホみたいだぞ」


道を行き交う人が何事かとこちらを見てくる。


「とりあえずお店の迷惑にもなるから歩きながら話そう」


「はい!!!!!」


「やっぱり壊れてんな」


二人を引き連れて店先から離れる。


「二人はなにしてたの?」


「ええー?気になるんですかー?」


「いや別にそこまでではないけど」


「私たちに興味を持ってください!!!」


「またつまみ壊れちゃったよ」


「藤宮さんはなにしてたんですか?」


「ちょっと、その、買い物を」


「歯切れが悪いですね」


そりゃ、「君たちへのホワイトデーのお返しを買いに来た」とは言えねぇだろ。


「私たちはこれからクレープ食べに行くんですよ!!!」


「そうなんだ」


そういえばこの間、コンビニで地域の情報誌をぺらぺらめくっていた時にそんな記事を見た。


「美味しいってめちゃくちゃ評判なんですよ!!!」


「あぁ、だからそんなにテンション高くてアホになってるんだね」


「アホとはなんですかアホとは!!!」


「馬鹿の方がいい?」


「どっちも嫌です!!!!!」


ふん、とへそを曲げてしまった東は先頭に躍り出て歩き出す。それを見計らってか、服の裾をくいっと引っ張られ、体が引き寄せられると耳元で、


「約束、忘れてませんよね」


と聞こえた。見ると、東がにこやかな顔でこちらを見ていた。言葉の内容よりも耳に息が当たったことの方が俺には大問題で顔が熱くなってしまった。心臓も高鳴っている。


返事を促すように首を傾げる秋野に対して、ぶんぶんと首を縦に振る。それに満足したのか俺の脇をすり抜けて秋野が歩き出す。その背中を眺めながら純粋に「怖い」と思った。


「藤宮さーん!雫ちゃーん!!こっちだよー!!!」


人込みの奥から東の声だけがする。必死で背伸びをしているんだろう、振る手の指先だけがかろうじて人込みの中から見えるが、その姿は確認できない。


秋野と二人でそちらへ向かう。近くまで行って気付いたが、それは人込みではなく行列だった。人の密集度的にはどちらでも構わなそうだが、意味がまるで違う。


「さぁ、並びますよー!」


東はすでにその行列の最後尾を陣取っている。


「ここが例のクレープ屋さん?」


「そですそです」


店は可愛らしくデコレーションされたケーキのような外観だった。店内での飲食スペースもあるようで多くの女性たちが笑顔で談笑している。行列もほぼ女性だ。


「じゃあ俺は行くね、まだ買い物終わってないから」


「え?一緒に食べるんですよね?」


それが当たり前だというように東が聞いてくる。


「いや食べないよ」


「「え?」」


東と秋野の声が重なる。秋野まで言うのか。


東にまた手を引かれて強引に列に並ばされた。反対側には秋野が立っている。二人して俺の服の裾を掴み、逃げられないようにしている。女子二人、振り払うのは簡単だが、俺は観念した。


「分かりました、お付き合いさせて頂きます」


にへーっという擬音がつきそうな顔で東が覗き込んでくる。


もう一度、店を見上げる。こんな可愛い店にこれから入るのか。

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