想う気持ちもプレゼント
俺の悩みは思わぬところから綻びを見せた。
結局、どういうものがいいか悩んでいた俺は未だネットの海を彷徨っていた。半ば半狂乱になりながら。
「どいつもこいつもよー、貧乏学生のことなんか考えてねぇよなぁ!クッキーなんて春宮にはもうあげちゃったし、もっとなんかねぇのかぁ!!」
むしろそれは怒りへと変貌を遂げていた。ただの八つ当たりである。
そんな中、画面の右下に動画サイトからの通知が届いた。西連寺夢子が生放送を開始したというものだった。こうして彷徨うのも数時間が過ぎた所だった。少し息抜きでもしようかとその通知をクリックした。
「こんばんわー、今日も配信やっていくよー!」
元気で明るいその声は俺の心に静かに染みた。あぁ、これこれ。俺はこの声から好きになったんだ。いわば心の潤滑油だ。嫌な気持ちとか悩みとかが吹っ飛んでいくようだ。
「じゃあ今日は前回もやったゲームの続きをやっていくよーっ」
そう切り出した西連寺夢子はゾンビゲームを始めた。ここのところ、本当に配信を追えていなかったから前回の続きかどうかも分からなかったが、それを何の気なしにぼーっと眺める。思えば、このように動画を見ることなど最近は全くといって無かった。この場所が自分の居場所なんだと再認識する。居心地がよすぎてダメになる。
以前、一緒にFPSをプレイした時よりも西連寺夢子のエイム能力(敵に照準をどれだけ早く合わせられるか)はさらに上達したようだった。拳銃を始めとする重火器でゾンビを撃ち続けるそのゲームは西連寺夢子の独壇場と化していた。ばったばったとなぎ倒していくその姿はまさに尊敬に値する動きだった。俺はそこまで上手いわけでもないので感嘆のため息しかでることはなかった。
物語はすでに終盤に入っていたようでムービーシーンが画面上に出現する。実は主人公は前作で死んでいたという衝撃に西連寺夢子は涙を流していた。もちろん配信上の西連寺夢子は極端に言ってしまえば絵だし、本当の所泣いてるかどうかは分かるはずも無かったが、鼻をすする音や明らかに分かる鼻声にこちらも貰ってしまいそうになる。このゲームは未プレイなので前作でどのような話の展開がされたのかは全く分からないが、とりあえずこの配信が終わったら過去の配信を見直そうと決意した。
そのままエンディングへと迎えた西連寺夢子は本編終了後のクレジット画面で改めてこのゲームの感想を述べていた。本編のことなので全くもって話の内容については分からなかったが、話す西連寺夢子は本当にゲームが楽しかったんだなとこちらが分かるほど生き生きとしていた。その明るさに俺も救われる。
配信はその後、コメント返しの流れになった。視聴者から寄せられる「次はなんのゲームをするの?」や「このゲームもおすすめだよ」というコメントに真摯に答えていく。人気配信者ゆえにそのコメントの量は凄まじいものだったが、すべてに目を通しているのではないかというぐらいコメントを追っていた。それはスパチャという枠に定まらず、普通のコメントに対してもそうだった。これが西連寺夢子を不動の人気実況者とした所以だろう。こういう所は本当に参考にしなくてはいけないなと思った。
そこであるコメントに目が留まる。
「ホワイトデーのお返しに困っています。何かよい案はありませんか」
思わず、知らぬうちに自分でコメントをしたのではないかというぐらい今の自分にとってそれは最も知りたいものだった。それに対しての西連寺夢子の返答も気になる。程なくしてそのコメントは西連寺夢子の目に留まった。
「ホワイトデーのお返しかぁ。私も友達にあげたけど、お返しが目当てで送ったわけじゃないからなぁ。それは異性に貰ったっていうこと?」
そのコメントに対して西連寺夢子が尋ねる。コメント欄におそらく同一人物であろう人がそれに返答した。「そうです」
「異性かぁ。そっかぁ。さっきも言ったんだけどさ、やっぱりあげた方は別にお返しのことなんて考えてないと思う。だから本当に気持ちのお返しでいいと思うんだよね」
うん、それはネットの海で幾度も見たものだ。それは知っている。それ以上のことを知りたいんだ。
「私もね、チョコ、作ったんだ。バレンタインってさ、チョコを渡すまでがバレンタインだと思うんだけど、あげたい人にどんなチョコをあげたいか、考えている時からもうバレンタインだと思うんだよ。もちろんチョコを作っている時もね。だから、もうあなたのホワイトデーは始まってる。お返しどうしようかな、何をあげたら喜ぶかな、そう考えている今からもうホワイトデーは始まってるんだ。だからそれももうお返しって言っていいんじゃないかな」
考えながら少しずつ話す西連寺夢子。
「んー、だからなんていうのかな。ほんとにそこまで悩む必要は無いと思うんだよね。その人のことを考えて思いついたものでいいと思う。お金のこととかは二の次でさ、例えば街中にふらっと行ってさ、目についたものが、あの子に似合いそうだなって思ったらもうそれでいいんだよ。思い浮かぶなら考えてるってことだから。そしたらもうそれ自体、嬉しいものですよ。あげた人の日常に自分がいるってのはほんとに嬉しい、ものだから」
「もちろんこれは私個人の考えだからもっといいのが思いついたらそっちの方がいいと思う!でも覚えていてほしいのはその人のことを考えるのもプレゼントだっていうこと。それぐらいでいいんだよ。お返しなんてさ。貰えること自体が、さ」
そう言って西連寺夢子は急に配信の締めへと入った。何か不都合でもあったのだろうか。ただ俺にとってはすごくヒントを貰えた気がした。明日は少し遠回りして帰ろう。




