サプライズは難しい
家で一人、俺は頭を抱えていた。
今日、あのあとに坂口と少し話をしたのだが、坂口からとんでもない情報を手に入れたのだ。とんでもないというと少し誇張が含まれるが、何度も言う通り今までチョコを貰ったことなんて無いし、むしろなんでこんなに急にモテ始めたのか、全く想像をつかない。今でもたまに夢なのかと間違うほどだ。おっと、少し話が脱線した。なぜこんなに俺が頭を悩ませているかというと、3月中旬に来るホワイトデーというイベントのことだった。
チョコを貰ったことが無いということはもちろんホワイトデーの存在すら忘れていたのだ。バレンタインデーのお返しとして開催されるこのイベントは勉強も手につかないほど俺を悩ませた。女子は何を貰ったら喜ぶのだろう。
みんな大好きグーグル先生に聞いてみるか。『ホワイトデー お返し』そこにずらっと並ぶ『女子が喜ぶお返し10選』の文字。なるほど、世の男性達も悩んでいるんだな。それが俺だけではなかったことに少し安堵する。なにが欲しいか直接聞けるものならそれの方が絶対にいいだろうし、外れることもないだろう。しかし、こうして一定数以上がグーグル先生に聞くということはいわゆるサプライズがしたいということなのだ。
「きゃーっ!ありがとう!これ欲しかったの!!」
そう女子に言ってもらいたいのだ。それは俺も全く同意だが、もし外れた場合が怖すぎる。慎重にならざるをえない。このチョイスは来年にまたチョコが貰えるかどうかが賭かっているのだ。
検索結果に出た10選はしかし、全く参考にならなかった。ブランド物のバッグや財布、香水や花など、お前それもし相手が気に入らなかったらどうすんじゃボケというものばかりだった。いくら気持ちと言っても相手もそんな高価な物を貰った所で嬉しいかどうか微妙なところだ。高価すぎると相手は引く、それは苦すぎる思い出にも起因していた。まぁこの話はいつかすることにしよう。
もう自分で答えを出すことを諦めた俺は誰かに相談してみることにした。坂口、はなんだろう、今日のことがあった手前相談したくない。55個に対するチョコのお返しはどんなものになるのだろうという興味はあったが、話を聞いていくうちにこちらが滅入りそうな気がした。もしかしたらそもそもお返しなどしないかもしれない。それでもチョコを貰えるのだからイケメンは罪だ。そして嫌いだ。俺以上のイケメンすべてくたばれ。
そうだ、赤坂。・・・は、やめといたほうがいいか。声のトーンから察するにそこまで怒ってはいなかったようだが、気が引ける。こちらが赤坂のためを思ったとはいえ嘘をついたのは事実だし、少量なりとも傷つけてしまったかもしれない。ほとぼりが冷めたら連絡してみようか。
そこでふとある人物が浮かぶ。そうだ、あいつだったら女性だし何かいいアドバイスを貰えるかもしれない。俺はメッセージアプリを開いた。
すると、気付いていなかったが赤坂から連絡が来ていた。おっと、こちらから連絡する前にあっちから来たのか。トークルームを開くと、
「オレヨリモ チョコヲ オオク モラッタ キブンハ ドウダ」
とあり、怖くなって見なかったことにした。明日にでもどこかで会ったら謝ろう。返信はせず、件の彼女へメッセージを送る。
「今だいじょうぶ?」
返事は数分で返ってきた。
「なに」
短文のそれは彼女の性格をより表している。それと、俺に対する嫌悪感も。
「ホワイトデーって何貰ったら嬉しい?」
今度は数秒で返事が返ってきた。
「へぇ、チョコ貰ったたんだ。よかったぬ」
誤字である。あいつはそんなに誤字をするような奴ではないと思うが珍しいこともあるものだ。
「誰かにチョコをあげた?」
誤字をわざわざ指摘する必要もないし、余計なことを言うと怒られそうな気がしてやめた。
「あげた」
また短文である。少し怖い。
「そうなんだ。お返し何貰ったら嬉しい?」
少し脱線したので強引に話を戻す。
「知らない。貰えればなんでもいいんじゃない」
辛辣である。
「そこをなんとか!」
メッセージはそれ以上返ってくることは無かった。ほんとに嫌われてるじゃん。
スマホをベッドに投げ捨てて八方ふさがりになった俺は風呂でも入るか、と立ち上がった。ちょうどそのタイミングで部屋の呼び鈴が鳴ったので玄関へ行く。春宮かと一瞬想像したが全然関係なく、その主は宅急便だった。なんか注文したっけなぁと思いながら差出人を確認すると、そこには『橘美冬』とあった。さっきまでメッセージをやり取りしていた相手だ。またこりゃ珍しい。美冬からの贈り物なんて今まであっただろうか。丁重に箱を開けると中からさらに可愛らしい箱も出てきた。メッセージカードもついている。そこには、
『一日遅れるかもだけど、ちゃんと届いたかな。ハッピーバレンタイン』
とあった。箱を開けるとそこにはもちろんチョコが。
あー。悩み増えちゃったよ。




