チョコの怒りはチョコで癒せ
あの激動のバレンタインデーから翌日。
俺は仏頂面で赤坂の目の前にいた。
「藤宮は何個チョコ貰ったの!?俺二個も貰っちゃった!!!」
赤坂は上機嫌で踊り狂っていた。さらに詳しいことを聞くと、チョコを貰ったのは人生で二度目らしい。しかもそれが一個ではなく、二個なものだから上機嫌になるのも当たり前だろう。
「俺も二個かな」
こんなに喜んでいる者にマウントをとっても仕方ないだろう。俺は少し嘘をついた。
「おお、一緒だ!どうする今日!?チョコパーティと洒落こむ!?」
「いや、いいよ。遠慮しとく」
そんなパーティを開催されたものならすぐに嘘がバレてしまうだろう。彼の喜びをないがしろにする前に断っておくほうが無難だ。
「えー!なんでー!やろうよパーティ!!!」
うっとうしいな。これはお前の名誉の為なんだよ。理解してくれ。
「おう、お前らなにしてんだこんなとこで」
赤坂の後ろから坂口が現れた。嫌な予感がする。
「坂口ー!チョコ何個貰ったー!?」
赤坂が上機嫌で坂口に聞く。やめろ赤坂。それ以上はいけない。坂口は昨日わざわざいつもよりも少し大きめのリュックで来ていたぐらいだぞ。バレンタインと見越しての行動だ。傷つくのはお前だぞ坂口。俺らなんて二人合わせても坂口にはかなわないんだ。
俺は必死に坂口に目配せをする。ほんとのことは言うな。坂口の為にも。
それに気付いた赤坂は小さく俺に気付く程度に親指を立てた。やはり持つべきは親友だ。言葉を交わさずとも俺の意思を汲み取ってくれる。ありがとう坂口。俺はお前を一生尊敬するよ。
「え?チョコ?55個だけど?」
おい親友、その口を閉じろ。鋭利すぎる。
「藤宮だって三個貰ってるはずだよな?千夏ちゃんに雫ちゃんに、あ、あと春宮さんか?」
待って待って、そこまで言っちゃう?
「赤坂は二個だろ?やったじゃん!」
だめだこの親友、嘘をつくということを知らない。
キリキリキリ、と赤坂の首が音を立てこちらを振り向く。その顔は憤怒ともとれるし、悲哀ともとれるし、ともすれば血涙でも流しそうな顔だった。
「・・・たんか」
「え?」
俺は恐ろしながらも聞き返す。
「・・・ついたんか」
まだ聞き取れない。これ以上、聞き返すとさらに怒りを買いそうで黙る。
「嘘を、ついたんか」
赤坂の顔がみるみる憤怒で満ちていく。
「いや、別にそんなつきたくてついたわけじゃないんだよ?赤坂の為と思って」
「うるせぇえぇぇ!!!優しさは時に人を傷つけるんじゃ!!!」
あんなにコミカルな踊りをしていた赤坂が今度は暴れまわる。それをきょとん顔で見つめる坂口。元凶はお前だぞ。
「ごめんって!!隠すつもりはなかったんだって!!!」
「なんじゃい!じゃあなにか!?二個しか貰わなかったの悲しいねぇ、まぁ俺は三個貰いましたけどねぇとか内心、思っとったんじゃろ!?」
「そんなこと思ってないって!!!」
「お前の言葉はなんも聞きとうない!!!」
「ねぇ坂口!お前もなんか言ってよ!赤坂を止めてよ!!!」
それを見てちょっと面白くなっていた坂口に助けを求める。それに対して坂口はめんどくさそうに頭を掻いてから、あ!と思いついた顔をして、
「甘いもの食う?」
と言いながら、おそらく貰ったであろうチョコをリュックから取り出した。火に油を注いでどうする。
「もうお前らなんか知らん!友達辞めてやる!!」
そう言って赤坂は走り去ってしまうのだった。
「なに、俺のせいかもしかして」
「もしかしなくてもお前のせいだよ」
「あーあ」
「ちゃんとあとでフォローするんだぞ」
「分かってるよ、ところで食いきれなさそうなんだけどチョコ食う?」
「お前、ほんとに分かってんのか?」
親友は驚くほどアホだった。




