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カロリーと美味しさは比例する

「「かんぱーいっ!!!」」


「いやー、助かったよ!お酒好きだから居酒屋って行ってみたかったんだけどやっぱり女一人だと帰り道とか危ないじゃない?だから誰かと一緒に行きたかったんだけど、この辺友達住んでなくてさー、藤宮と一緒でよかったよかった!」


生ビール片手に春宮はそう言った。あ、藤宮と一緒がいいってそういう意味ですか。


俺は春宮に連れられるまま居酒屋へと入店した。すでに卓上にはシーザーサラダや焼き鳥、エビマヨなどといったザ・居酒屋メニューが所狭しと並んでいる。俺はビールは飲めないからハイボールだ。


「ほんとに連れてきてくれてありがとう!」


アルコールで少しテンションの高くなった春宮がサラダを頬張りながらそう言う。むしろ連れられてきたのはこっちなのだが。


「家でよくお酒飲むの?」


春宮の空いた皿に再度、サラダを盛りつけながらそう聞く。


「お、気が利くねぇ。ありがと!家でも飲むけど、ほら、家だとおつまみとか自分で準備しなくちゃじゃない?それがめんどくさくて!」


だから居酒屋って注文したら勝手におつまみでてくれるからいいよねぇ、と新たに盛りつけられたサラダをまた口に運びながら春宮は言う。


「それにやっぱり一人で飲んでもつまんないじゃない?誰か話し相手がいないと!」


「そうだよね」


同意しながら俺は焼き鳥を凝視する。


話は脱線するが、焼き鳥盛り合わせの場合、何から食べるのが正解なのだろう。盛り合わせというと、だいたいラインナップは店によっても大差ないと思う。もも、皮、つくね、ねぎま、ぼんじり。この辺りがいつものと言っていいだろう。鳥の名産地では一風変わったものもあるだろうが、今回は割愛。俺がこの中で一番好きなのはぼんじりだが、ぼんじりが嫌いな人はほぼいないと言える。ぼんじりが嫌いな人はそもそも焼き鳥など頼まないだろう。ただここで一つの問題が発生する。温かい内に食べたいぼんじりだが、果たしてそれを先にとってもいいものなのか。すべて2本ずつあるのならばこんな悩みなんて放棄しても良いだろうが、今回はすべて一本ずつだ。もし春宮もぼんじりが好きで、それを先にとってしまったら幻滅されるのではないか。好きなものを先に食べたい派と好きなものは後にとっておきたい派の日夜、水面下で行われる論争は未だ決着はつかない。もし、春宮が後に食べたくてとっておいているとしたら。めんどくさいやつ?それ誉め言葉ね。


「好きなの食べなよ。ご飯食べてないんでしょ?」


焼き鳥から目を離せなかった俺に春宮がそう言ってくれた。


「ほんと!?」


俺は目を輝かした。


「ワリカンなんだから気にしなくていいよ?」


「え、いや俺が払うけど」


「いらないいらない!ご飯代くらい自分で出せますーっ」


「そう?」


世には例え付き合っていなかったとしても男が全部払えという意見の女性が一定数以上いるという記事をどこかで見た。春宮はそれには含まれていなかったようだけど。


「じゃあ、これを」


さっそく、大好物のぼんじりを手に取り、口に運ぼうとしたら、


「あ」


と、春宮が言った。


やばい!やっぱり春宮も好きなものはあとで食べる派なんだ!ぼんじりは後で食べようと思っていたのに先に食べられそうだなっていうときの「あ」だ今のは!間違いない!食べる前でよかった!


「おっと、これはぼんじりか、間違っちゃったなぁ」


俺はできるだけ冷静に言葉を紡ぎながら串を皿に戻し、その次に好きな皮を手に取った。


「やっぱり最初は皮だよねぇ」


そう言って口に運ぼうとしたら、


「あ」


と春宮がまた言った。


なんなんだよ!!!食べていいって言ったのそっちだろ!!!これも食べたいってこと!?なんなの!?食いしん坊なの!?!?


「うそうそ、ごめんごめん。食べていいよ」


けらけらと笑いながら春宮はそう促した。


「もーっ」


ようやく口に入れられたそれは今までの人生でわりと、ほんとに一番美味しかった。タレもさることながら、その絶妙な焼き加減。これは相当やりこんだと伺える。フレンチだったらここでシェフを呼んでいる所だ。


せめてどんな人が焼いているのか見ようと厨房に目を向けたが、窓際に位置するこの席ではそこまでは見えなかった。春宮に見えないように厨房へ向けて小さく親指を立てた。いい仕事してますねぇ。


声には出してなかったが、相当美味しかったことが顔に出てたのだろう。春宮が俺を見て、


「美味しい?」


と聞いてきた。それに、


「今までの人生で一番美味しい」


と誇張表現も無く素直な感想を述べると、


「あ」


とまた春宮が言った。しかし、今度はそれ食べるの?という意味の「あ」ではなく、口を開けた時の「あ」だった。食わせろ、ということ・・・?


それを見て黙っていると、春宮が自分の口を指さし始めた。やはり、食わせろという事か。でもこれって、間接キ


いや待て俺も成人して何か月も経つ。今さらこの年で間接キス程度で騒ぐこともない。それで喜んでいいのはせいぜい中学生ぐらいまでだ。それに、これくらいで狼狽えるのがバレてしまえばそれはもう自分は童貞です、女の人と付き合ったことはありませんと言っているようなものだ。そう、柚季、今こそクールになれ。


やれやれ、といった手ぶりを見せながら焼き鳥を春宮の口に持っていく。心臓の高鳴りが激しくなる。それを春宮が口に含む瞬間、我慢できなくて目を逸らしてしまった。春宮は十分な咀嚼をしたあと、


「んー、おいひぃ!」


と手を頬に当てながら顔を綻ばせた。


その顔がもうほんとに可愛すぎて見とれてしまって今ならこの焼き鳥になってもいいと思った。


ちなみに、一口しか食べていなかった皮は全部食われた。

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