脳内地図はアップデートに失敗しました
俺の口からとっさに出たその言葉。
「一緒に夕飯でもどう!?」
それに春宮は困ったように微笑んだ。
「ホワイトデーにはまだ早くない?」
違う。お返しなんかじゃない。ただ春宮ともっと一緒にいたいだけなんだ。
その想いはしかし口から飛び出ることはなく、一瞬の静寂がその場に流れた。あぁ、今回もだめか。いつも春宮にはやんわりと断られているし、今回もきっとそうなんだ。また枕を涙で濡らすことになるのか。
「まぁいいか」
しかし春宮はその俺の思いとは裏腹に、
「着替えてくるから少し待っててくれる?」
そう言って部屋に戻っていったのだった。
「っしゃぁい!!!!」
俺はそこで小さくガッツポーズをした。
二階廊下の塀に背中を預けて、イケメンモデルを気取っていた俺は内心焦っていた。時刻は21時になろうとしている。こんな時間だったらもはや居酒屋ぐらいしか開いていないのではなかろうか。自分で誘った手前、春宮をエスコートしたいところだが店に関しては俺は疎いぞ。近くの弁当屋と言われれば秒速で返答できるがレストランで、さらにはあんな可愛い女の子を連れて行くんだ、生半可な店では呆れさせてしまう。どうすればいいんだ。
急いでスマホを取り出す。検索しようとスマホのロックを開こうとするが開かない。え、このタイミングで故障か?焦る気持ちを抑えて電源ボタンを長押し。すると、画面に表示されるは充電切れのアイコン。なるほど、これはやばいかもしれない。
今から家に戻って携帯充電器を持ってくるか?幸い部屋は目の前だし、春宮が出てくるよりも早く戻ってこれるだろう。しかし待て。ちゃんとそれは充電していたか?充電コードを差した覚えがないぞ。あぁいや、じゃあダッシュで最寄りのコンビニに行き購入するか?待て待て、いくら最寄りといっても5分はかかる。往復10分だ。さすがに春宮も出てくることだろう。
ようし、なるほど。これは、詰んだな。
もういいやどうとでもなれよ。俺はもうジタバタしない。
「お待たせ」
春宮が部屋から出てくる。
「いや全然待ってないよ。今来たとこ」
俺は長年の『言ってみたいセリフ~デート編~』でランキング2位の言葉をついに口にすることができた。ちなみにランキング1位は『君の瞳の方がきれいだよ』だ。たぶん機会は無い。
「ここにずっといたのに?」
そう笑う春宮は少し息を切らしているようだった。急いで準備してくれたんだな。別にいいのに。
「それで、どこ行くの?」
「と、とりあえず、歩こっか?」
「うん」
会話をしながら脳内地図で検索しまくっていたが、そこにどのように入力しても何も引っかかることは無く俺は「このポンコツどもがぁ!」と脳内で怒号をまき散らしながら春宮の隣を歩いた。それを緊張かと思ってくれたのか、春宮は場繋ぎで話しかけてくる。
それは、寒いねとか雪降るのかなといった当たり障りのないものだったが、会話がないよりはずいぶんマシだった。有難い。その間に脳内地図でさらに検索をかける。ようやく一件ヒットした。しかし、そこは全国規模のイタリアンのファミレスだった。いや好きだけどね。好きだよ、ミラノ風ドリアとか何回食べたか分かんないもん。いやでもどうだ、デートにファミレスってありなのか?
二人は近くの商店街に辿り着いた。ここだったら何かしらの店があるだろうと思い来たわけだが、軒並み飲食店はシャッターを下ろしており、照明がランランと輝くそこはすべて居酒屋だった。あぁ、どうしよう。居酒屋でもいいのかな。
「お店、迷ってるの?」
それを察してか春宮が話しかけてくる。それに、
「そう!そうなんだよ!おすすめなお店ばっかりでさ!どこにしようか迷ってたところ!」
と、めいいっぱい虚勢を張った。
「ふーん」
と、こちらの顔を覗き込んでくる春宮から必死に目を逸らしていると、
「じゃあ私、あそこがいい。ずっと行きたかったんだよね」
春宮が指さしたそこはテナントビル二階の居酒屋だった。
「え、居酒屋?いいの?」
「実は私、もうご飯食べてたんだよね。だからガッツリしたものよりもお酒ぐらいがいいかも」
それは好都合。なんたる幸福。神様、いつもありがとう。
「それに、」
「それに?」
「藤宮と一緒だから大丈夫かなって」
ドキッと心臓が高鳴るのが分かった。それはどういう意味なんですか春宮さん!!!!!!




