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秋野雫の場合①

ずっと私には友達がいなかった。


二人の兄がいたせいで幼少期はずっと兄たちと遊んでいた。それは小学校でも中学校でも変わらなかった。兄たちはよく私の教室へと遊びに来ていたし、家に帰っても兄たちがいる。私の生活はそれで回っていた。


中学生になって、私に生理がきた。今までと同じように兄たちと遊べなくなってしまった。おそらく両親からはっきりとではないが、何か説明をされていたのだろう。兄たちはそんな私を慮って外に遊びに行くのを辞めた。たくさんゲームをするようになった。私と兄たちの遊びはしかし、終わることはなかった。


兄たちにもそれぞれ友人がいた。中学生の高学年になる頃には私を家に置いてよく友達と遊ぶようになった。しかし、私は平気だった。何よりも今やっているゲームの続きが気になって仕方なかったからだ。兄たちと遊ぶ機会は減ったが、私にはゲームの中のキャラクター達がいる。それだけでよかった。


高校生になり、兄たちとは学校が変わった。教室では今をときめく女の子達がやれメイクだのやれジャニーズだのと騒いでいる。もちろんその輪に私は入ることができず、いつも遠巻きに見ていた。それでも平気だった。私はそんなことよりも早く帰ってゲームの続きがやりたかった。


入学して半年ほど経ったある日、いじめが始まった。根暗で友達がおらず、常に一人ぼっちだった私は簡単にその標的にされた。クラスの上位カーストである陽キャグループに目をつけられたのだ。今となっては、あのクラスのランク付け、とでもいうのだろうか、あれが甚だ意味が分からない。なぜたった四十人弱のクラスでそんなものができるのか。それは果たして勉強するのに何か役に立つのか。全く意味が分からない。


教科書を隠されるとか、上履きが無くなるとかはしょっちゅうだった。周りのやつも同罪だ。見て見ぬふりをするやつ、同情で声をかけてくるやつ。でも私はそれに対して絶対に辛そうな表情は見せなかった。それが私の最後のプライドだった。それに、家に帰ればゲームが私を待ってくれている。私はそれだけで立ち向かうことができた。


いじめはさらに過激になっていった。トイレの個室の中にいるときに上から水をかけられたときは絶望や悲しみよりも「あ、ほんとにこんなことする人っているんだ」という新たな発見が芽生えたぐらいだった。


ただ、いじめは思ったよりも早く終焉を迎えた。


水をかけられ下着まで濡れてしまったので、体操服にでも着替えるかと個室の扉を開けようとしたところ、外から、


「なにやってんだおめーら!!」


という怒号が聞こえた。思ってもいなかった展開に手が止まる。それからは水をかけた犯人である同じクラスの女生徒と、怒号を上げながら入ってきた知らない人の言い合いと鈍い音がしばらく響いていた。音が無くなり、人のうめき声と浅い呼吸音しか聞こえなくなったのでおそるおそる個室の扉を開けた。


そこには、倒れている女生徒を見下ろす背の小さな女の子の姿があった。


「あ、大丈夫だった?」


倒れている女生徒は涙と鼻血でせっかく長い時間をかけてメイクをした顔面をぐちゃぐちゃにしている。その小さい女の子も軽く鼻血を出しているが平気そうだ。


その女の子の問いに小さく頷く。


「そっか、よかった。私は東千夏。じゃあ、とりあえず逃げよっか!」


そう名乗った彼女は私の手をひいて勢いよくトイレを飛び出した。その姿はヒーローと呼ぶに相応しかった。


その後、教師たちにはちゃんと行為が暴かれてしまい、私のいじめに関しても露見されることとなった。東千夏に関しても、私を助けたという情状酌量があったものの、一週間の停学処分となった。


お礼がしたいという名目で東千夏の住所を担任から聞き出した私はさっそくその日の放課後に東宅へ向かった。私を快く迎えてくれた東に私は開口一番聞いた。


「どうして私を助けてくれたの?」


今まで名前も顔も分からなかった人間だ。自分もいじめられる危険性だってある。そんな危険を顧みずに助けてくれたのはなぜなのか。


「え?うーん、生理でイライラしてたからかな」


ただの憂さ晴らしだった。ここで大人気ヒーロー漫画よろしく「君が助けを求める顔をしてた」とか言ってくれればもしかしたら美談だったかもしれないが、ただイライラしてただけだったとは。


その返答がなぜかすごく面白くなってしまって、玄関先で大笑いをした。東も、つられて笑った。こんなに笑ったのは何年ぶりだろうと思うぐらい笑った。


それから私と千夏はいつも一緒だった。千夏の好きな遊びを一緒にして、千夏の好きな所に一緒に行って、千夏の好きなものを一緒に食べた。私の中は千夏でいっぱいになった。それはもう好きになってしまうほどには。


もちろん、千夏と同じ大学へ行った。千夏もすごく喜んでくれた。また一緒に勉強できるね、そう言って千夏は笑った。


程なくして千夏から相談を受けた。好きな人ができた、と。私から千夏を奪うのはどこのどいつだ。千夏から素性を聞き出し、件の彼に接触することにした。ひどく平凡でもしかしたら私と同類なのでは、と思うぐらいの男性だった。食堂で見かけた時にも取り立てて言うほどでもないなと思った。こんなやつに千夏はどこに惹かれたのだろう。正体を暴いてやる。


まずは、自分の得意分野から攻めることにした。しかもそれは対人のFPSゲームだ。FPS、つまり一人称シューティングゲームというものだが、私が思うにこういうものはよりよく人の本性を暴く。負けてしまったのをゲームのせいにする者、敵のせいにする者、通信速度のせいにする者、理由は多々あれど、何より重要なのは負けた時の反応だ。怒号を上げるような最低な奴なら千夏には相応しくない。


そういう狙いで開いたゲーム大会だったが、それはむしろ彼の好感度を上げてしまうイベントとなってしまった。彼はいつ、どんな時でも穏やかだった。なんなら自分を顧みる謙虚さまであった。私が彼を認めるのにはそこまで時間はかからなかった。


性格はいいとしても性欲はどうなんだ。人間の三大欲求であるそれは、大学生ともなると猿の方が近いに決まっている。あんな人間でも性欲はあることだろう。そうだ、一泊旅行を計画して千夏を部屋に連れ込もうものなら私がどうにかして千夏に諦めさせよう。え?春宮さんも行くの?まぁ、いいけど。


結果から言うとこれも失敗に終わった。これを機にと本人から話を聞き出した時に今回の旅行に同行してきた春宮という人が好きなのだと分かった。それを知ってなぜか、私には嫉妬の炎が灯ったことを知った。これはなんだ。まさか、私は、こいつに?


だから私はその恋愛レースに参戦することにした。その方が何かと都合がよいと思ったからだ。千夏と一緒にいられるし、引き続きこいつの監視もできる。それに、この気持ちの正体を知りたかった。


繰り返すが、私という人間はほぼ東千夏でできている。好きな食べ物も一緒、好きな場所も一緒、好きな遊びも一緒。


だから、彼を見る目がちょっとだけ寂しそうな千夏を見ていられなかった。ずっと待ち続ける千夏が可哀そうでならなかった。だから提案した。限度を。時間制限を。


これで千夏、喜んでくれるよね。

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