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コミュ障はテンションが高い

それから数日後。

家具も一通り揃え新生活を満喫していたが、俺は未だ小鳥遊ミユを忘れることができずにいた。


ベランダがこの部屋一番のお気に入りスポットとなり、今日も今日とて一人たそがれてると、ふと視界の隅に見慣れぬものがあるのに気付いた。先日の件でどうでもよくなった俺が衝動的に手を出した煙草だ。むせるわ喉は痛くなるわ気分は悪くなるわで最悪な気分になったので、今やもうベランダの隅に新品同様の灰皿と共に鳴りを潜めているが。

時刻は午後10時を回ろうとしていた。秋が近いからだろうか、夜風がずいぶん冷たくなったと感じる。

そろそろ中に戻ろうかと思った時、ふいに隣の部屋から声が聞こえることに気付いた。話し声、だ。

引っ越しの挨拶もできずにいたので隣の部屋の人がどのような人か分からない。個人的には若い女性が良いと思うのは男性ゆえの性だろう。

途切れ途切れで、断片的にしか聞こえないが、おそらく女性だろうということが分かった。明日にでも挨拶に伺った方がいいだろうなと思い、その日は部屋に戻った。やましい気持ちは全然無いです。


翌日。

そういえば引っ越しの挨拶ってなにを持っていけばいいのだろう。無難にタオルが良いと聞いたことがある。曰く、タオルは消耗率が激しく雑巾にもすることができるので地味にありがたいものなのだと。それにもし、子持ちだった場合は余計、入用となるだろう。そうだ、タオルにしよう。

そこまで自分に言い聞かせた所で、来るは件の大型ショッピングセンター。なんでも揃う。ありがたし。でもどこに行けばいいんだ。

館内の案内板とにらめっこをする。勝手に1階にあるのかと思っていたが、案外見つからないものだ。いや待て、そもそもあれのジャンルはなんだ。と、考えを巡らせながら案内板を隈なく探していたところ、ギフトという文字を発見した。これか!?てか、やっぱ1階じゃねぇか。場所は入ってきた入り口から反対側。そりゃ見つからないわけだ。


いざ!と歩き出そうとした瞬間、俺はちょうどそのタイミングで案内板を見に来た女性と衝突してしまった。俺はあまり体重が重い方ではないが、その女性は衝撃に耐えられず転んでしまう結果となった。初対面女性恐怖症の俺はまたもや、


「申し訳ありませんお嬢さん。私の不注意でした。お詫びをしたいのですが、このあとお時間はございますか?」


と、手を差し伸べようとしたが、口から出たのは、


「す、すすすsみませんっ!!!だい、大丈夫ですか!?」


だった。脳内と現実の差が激しすぎる。

その女性は「いたたっ」と言いながら腰をさすっている。女性は腰が大事だと聞いたことがある。もしこれで将来的にどうにかなってしまったらどうしよう。最悪の想像が頭を駆け巡る。


「はい、大丈夫です・・・」


言いながら女性は立ち上がる。スカートのすそを手で払いながらこちらを向く。


「ぶつかっちゃいましたねっ」


てへへ、というような擬音が出そうな顔ではにかむその女性は神から遣わされた天使か、はたまたその美しい美貌で男性の精力を根こそぎ奪わんとするサキュバスか、いや後者は違う、確かに美貌という点は素晴らしい、しかし可愛らしい顔からは淫靡さなど微塵も感じられない、つまり天使だ。


「なにか顔についてますっ?」


女性は俺の顔を覗き込んでくる。アップにも耐えられるその顔面はまさに美少女のそれ。やだ、もう、好き。


「す、すみませっ、何もついてないですっ、大丈夫ですっ」


片や、童貞くそどもりコミュ障のそれ。目を合わせることなんてできやしない。


「そうですかっ!よかったっ!ここ広くて私も未だに迷子になっちゃうんですよー」


両手の指先を顔の前でくっつけてまたもはにかむその女性。これなんていうポーズなんだろ。


「お、ぼ、僕も最近越してきたばかりでっ、ぜんぜん、わかんなくって!」


「あ、そうなんですね!お互い、頑張りましょうね!」


ガッツポーズをして颯爽と歩き出す彼女。あ、彼女と言ってもSheという意味の彼女であってgirlfriend的な彼女という意味では決してないので!あしからず!

というか、俺の人生にあんな可愛い子と出会う機会があったなんてな。まだまだ捨てたもんじゃないぜ。へへっ。


上機嫌で彼女とは反対方向に歩き出す。お隣さんへのギフトを買いに行かないとな。


俺の後方でその女性がこちらを振り向き、


「コミュ障、気持ちわるっ」


と言いながら舌打ちをしてたことなど知る由もなく、俺はまだ見ぬ、女性と思わしきお隣さんへの淡い期待に胸を躍らせていたのだった。

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