男の嫉妬ほどみっともないものはない
「この時期だったらバレンタイン絡みじゃねぇの?」
余計なお世話も甚だしいが、東と秋野の喧嘩の理由についてどうしても気になってしまった俺は坂口に相談していた。
「あーそうか、バレンタイン・・・」
「そうそう、まぁお前にとっては縁も所縁もないだろうけどさ」
「うるさいな」
坂口にド直球の言葉のストレートを投げられた俺は捕球することもなく、そう吐き捨てた。
「でも確かに去年までは全然意識してなかったなぁ」
去年は、自分の知らない内に俺のファンクラブなんかができていて人込みができるぐらいの女生徒に囲まれ、両手に持てないぐらいのチョコが貰えるイベントがあるかもしれないと思い、ワクワクしながら大学へ来たらもちろん全然そんなことはなく、放課後まで粘ってみたものの結局貰えたチョコはゼロだった。俺は恥ずかしさで顔を伏せながら家に帰った。頬には一筋の涙の跡ができていた。
「あの子からは貰えそうなんか?」
「あの子って?」
「春宮さん」
「んなっ!!!」
俺は急いで坂口の口を塞ぐ。
「こんな所でそんなこと言うな!!!」
場所は食堂。周りにはそこそこ生徒がいる。
「ぷはっ、なんかお前の手、手汗すごくない?」
「やめろ!!!!!!」
俺の手を振りほどいた坂口は自分の口を拭きながらそう悪態をついた。
「でもバレンタインで喧嘩することなんてあるかね?」
「うーん、例えばだけど」
「ふんふん」
「一緒にチョコを作る約束をしてたけど、それがダメになったとか」
「うんうん」
「買おうとしてたチョコが一緒だったとか、まぁ喧嘩になるほどのことではないと思うけど」
「そうだね」
「あとは、本命をあげる相手が一緒だったから、とか?」
「全部違いそう」
「分かる」
いや待てよ。おそらくだが、東は俺にチョコをくれるだろう。しかも本命を。そして秋野の『三人目』発言。それが俺のことを好んで言ってくれていたとしたら秋野からも本命のチョコが来るのだろう。それを知ってしまったとしたら?秋野は東の気持ちを知っているが、東は秋野の気持ちを知らないはずだ。何かのはずみでそれを知ってしまったら?東は独占力が強そうだ。喧嘩にも十分発展すると思う。
そこで俺は急にあることを閃いた。
これ、全部俺の妄想だったらどうしよう。
頭の中で、とはいえ『東は俺にチョコをくれるだろう』とか『秋野からも本命のチョコが』とか言っちゃったぞ。やばい、恥ずかしい。俺はなんの自信をもってそんなことを言えるんだ。こんなの去年と同じじゃないか。期待は持つな。また涙を流しながら家路につきたくはないだろう。
「泣いてんのか?」
去年の雪辱を思い出し、俺は知らずのうちに涙を流していた。またしても。恥ずかしい涙を。理由は絶対に言いたくない。
「いやごめん、大丈夫。ちょっと嫌な思い出がぶり返されただけ」
「そうか、あんまり気に病むなよ」
「ありがとう」
「ところで、千夏ちゃんと雫ちゃんからもお前貰えんの?」
「それを考えて死にかけてんじゃごらぁ!!!」
知ってか知らずか一発で地雷を踏みぬく坂口にもはや尊敬の念を抱いた。ていうか、東ならまだしも秋野にもちゃん付けしてるんじゃねぇよ。下の名前も呼ぶな。
もうこいつには洗いざらい喋ってしまおうか。こいつのことだからどうせどこかから情報が集まるんだ。早いか遅いかぐらいの問題だ。それにこいつは唯一無二の親友だ。口は堅いだろうし、周りにべらべらと喋るようなやつではない。もうすでに知っている情報を本人から言わせようとするようないやらしさはあるし、それをニヤニヤしながら聞いてるような意地の悪さはあるものの、信頼できるやつだと思う。それに相談できるやつはこいつと赤坂ぐらいだし、赤坂は童貞だし、相談するならこいつが適任だ。
よし、すべて喋ってしまおう。
「ねぇ坂口」
と、言い終わる前に坂口の後ろから一人の女生徒が歩み寄ってきた。その女生徒は俺の知らない人で坂口の彼女でもない。ただの知らない人だ。その知らない人は、仲良さげに坂口の肩に手を置き、
「さかぐちー、チョコは甘い方がいい?苦い方がいい?」
と聞いてきた。
坂口は突然話しかけられて、少し大きめの反応を見せた後に、
「あー、うーん、甘いのは苦手だから苦い方がいいかな」
と言った。
女生徒はそれに「おっけー。バレンタイン楽しみにしといてねー」と答え、手を振りながら去っていった。
「・・・あの子、だれ?」
「いやよく分からん。講義が同じで知り合ったけど、そんなに話してないんだよな」
「そうなんだ」
「あ、ところでさっき何か言いかけてなかった?」
「お前には絶対に言わない」
「なんだそれ」
「そんなに知らない女の子からチョコを貰えるようなやつに俺の気持ちなんて分かるもんか!!」
「えー」
うわーん、と噓泣きを披露した俺に坂口はちょっと引いていた。




