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女の子の秘密

大学も再開し、いつもの日常が始まったある日。大学構内でばったり東と出くわした。


「お、藤宮さん」


東とはアパートでよく会っているので(会っているというか押しかけてきているというか)構内でこんな風に会うのは違和感があった。


「おー」


「まだ眠そうな顔してますね」


「冬って布団から出たくないよね」


「ふーとんのなかからーでたくないー」


「それもう古くない?」


「ひどい!新しいとか古いとか関係ないですよ!私が出会った時が最先端なんです!」


「はいはい」


目の前には都合よく自販機とベンチ。東と話しながら時間でも潰そうか。


「なにか飲む?」


「あ、いや私ちょっとこれから用事があるので」


「あ、そうなんだ」


おかしい。いつもの東なら、「わーい!じゃあせっかくだし一番高いものにしよーっと!」と言ってねだるはずだが。


「じゃあ私はここで」


「う、うん」


走り去る東の背中を目で追いながら、そういえば今日は秋野と一緒じゃないのか、と思った。いつも一緒にいるイメージだったから新鮮だ。


次の講義まで時間がある。一人さみしくコーヒーでも啜ろうか。


自販機でお気に入りのコーヒーを購入し、ベンチに腰掛ける。一人でぼーっとベンチに座るのも悪くない。季節は冬真っ只中だが、太陽が出ておりほんのり暖かい。思えば、先の二年間は坂口ぐらいしか友達がいなかったのでこうして誰かとばったり会い、少しの立ち話をして別れる、なんて今まで無かったものだからずいぶん成長していると思う。もうコミュ障と、自分を評価するのはやめていいのかもしれない。


空を流れる雲をなんとなしに眺めていると急に誰かが顔を覗き込んできた。「うおう!」とコミュ障には似合わない大声をあげながら上体を起こすと、秋野がそこに立っていた。東と一緒ではなかったから今日は休みなのかと思ったが、そんなことはなかったようだ。


秋野はぺこっとお辞儀をしてからスマホを差し出してきた。


『こんにちわ、藤宮さん』


一泊旅行で距離が近づいてきたと思ったのは俺だけだったのか、秋野は以前と変わらず文字で話しかけてきた。ふいに蘇る記憶。「私を三人目にしてくれませんか」


頭を振り、煩悩を晴らす。あの件についてはまだ触れるべきではない。ましてやこんな所で話題に出すべきではない、秋野の方から切り出してきたときに追求しよう。


俺のそんな様子を見て、秋野は首を傾げる。どうしたの?と目が言っている。


「いや、なんでもないよ。ところで今日は東と一緒じゃないんだ?」


東の名前を出した瞬間に、秋野の頬はそれこそ七輪の上の餅のようにぷくーっと膨れた。スマホが割れんばかりに文字を打ち込んだ秋野は勢いよくスマホを突き出してきた。そこには、


『もうあんな子知りません!勝手にすればいいんです!』


とあった。


ははーん、喧嘩でもしたな?


女の子同士の喧嘩に首を突っ込むのはよくないと知りつつも、何か自分も力になれるかもしれないと思って喧嘩の理由を聞いてみることにした。


「なにかあったの?」


秋野は、少し逡巡としてから文字を打ち込んだ。


『まぁ藤宮さんには絶対に教えませんけど』


「お、おう・・・」


まぁ、うん、なんだ、少し調子に乗っていたかもしれない。おこがましかったかもしれない。余計なことはするな、そういうことですね、すみません。


『では、私は次の講義がありますのでここで』


「う、うん」


ぺこっとお辞儀をして秋野は歩き去った。それを確認してから俺はベンチに深く座った。


え、今日厄日なの?やることなすこと何も上手くいかないんだけど。


「おつかれ」


頬に冷たい感触があってそちらに目を向けると春宮が缶コーヒーを持ちながら立っていた。


あ、今日厄日じゃないわ。いい日だわ。


「なにしてんの?」


「今ちょうど厄日が吉日に変わったところだよ」


「なにいってんの?」


ケラケラと笑いながら、当たり前のように隣に座る。


「さっき、東と秋野もいたんだよ、すぐいなくなっちゃったけど」


「へぇ、そうなんだ」


「なんかちょっと仲悪そうだった」


「珍しいね」


「そうだね」


春宮は缶コーヒーを口に運ぶ。途中で、「あ」と何かを思いついた。


「え?なに?」


「いや、なんだろ、ちょっと思いついたというか」


「仲の悪い理由ってこと?」


「そう、あ、でも藤宮には言わないわ」


「なんで?」


「女にもいろいろあんのよ」


謎は深まるばかりだった。

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