思わぬダメージは心さえも傷つける
形容しがたい感情が俺を襲っていた。
前回つらつらとアホのように自問自答を繰り返していたが、自分の中ではほぼ春宮=西連寺夢子という式はすでに完成していた。それなのにあっけなくそれが崩壊してしまったものだからもう何も分からなくなった。じゃあ、あのSNSの写真は本当に西連寺夢子が同じ場所に居合わせただけだったのか。そしたらもしかしたら俺はどこかで会っていたのか。くそう、そんなん会いたかったわ!!!
春宮をそうと決めてかかっていたことに後悔の念が積もり積もった俺は部屋中を前転することで春宮への謝罪とした。面と向かっては言えるわけがないので、体育の授業で一番苦手だったマット運動を披露することで自分の気持ちに整理をつけようとしたのだ。何を言ってるか分からない?大丈夫、俺もだ。
前転を繰り返すうちにフローリングでの前転はひどく痛いものだと気付いた。マット運動と呼ばれるぐらいだ、元々マットの上でやるものであってフローリングの上ではやらないものなのかもしれない。背中も痛くなってきた、春宮への謝罪はこんなものでいいだろう。このよく分からない行動から俺を解放してくれ。
あと一回だけやったら終わりにしよう、と最後の前転を繰り出した時、せっかくだからアクロバティックにそのまま飛び起きてみようかと無謀な挑戦が頭をよぎった。これでも中学高校は運動部でしのぎを削っていたんだ、それはやったことないけどたぶんできる、俺ならできる。いけ柚季。これを成功させて春宮への謝罪としろ。いけ!
最近は運動してなかったけど、運動部入ってたしまだ動けるでしょ、大丈夫大丈夫、という過去の栄光にすがりつく大人たちってやっぱり一定数いるじゃないですかぁ。でもあれってほんと危険ですよ。大人になると治癒力って低下しますし、もはや怪我って怖いものじゃないですか、仕事のこととか考えちゃうじゃないですか、子どもの頃には確かに持っていた冒険心というんですかね、後先考えずにとりあえず挑戦するっていうあの気持ち?もう無いじゃないですか、ほんとに大人って悲しいですよね。
その無謀な挑戦は足をテーブルに強かにぶつけたことで強制終了となった。ほら見たことか、冒険心なんて怪我の元だ。そんなもん捨てて旅に出ようぜ。この世はラブアンドピースだ。
耐えれないほどの痛みにのたうち回っていると、携帯が振動した。どうせなんかどうでもいい通知だろ。そんなことより今はこの足の方が大事だ。必死に転げまわっているのだから邪魔しないでほしい。
続けて、今度は長い振動があった。電話か?俺に電話なんて珍しいこともあるものだ。メッセージならいくらでも受け付けるが、電話なんてめんどくさい。そもそも声を出すこと自体、めんどくさいのだ。コミュ障とめんどくさがりは同居する。
ベッドの上にあった携帯を、足の痛みに耐えながらもなんとか這って手に取る。すでに携帯の振動は終わりを告げ、悲しくもいつもの姿となっていた。通知を見ると、着信に美冬という名前があった。おお、ほんとに珍しいこともあるものだ。美冬からの電話なんて初めてじゃなかろうか。携帯が今度はメッセージを通知する振動を鳴らした。先ほどの通知と合わせて二度目のそれだ。メッセージアプリを開くと、どちらも美冬からのものだった。
一通目。
『今電話してもいい?』
電話する前に一度メッセージを入れるとは。美冬はよくコミュ障というものを分かっている。先にメッセージを入れることでコミュ障に心の準備をさせてくれたんだな。でもそのメッセージの一分以内には電話がかかってきていたのでもはやそれに意味はないぞ。もっとコミュ障のことを勉強してからやり直せ。
二通目。
『でんわ でろ』
怖すぎる。この文体はどこかで見たことがあるぞ。ヤンデレか?ヤンデレなのか?それともメンヘラ?ヤンデレとメンヘラの違いってなに?
折り返すのが少し怖くなり、何も見なかったことにしてもう一度携帯をベッドの上に戻そうとする。また電話がかかってきた。今度はなんと言われるか分からない。俺はおそるおそる電話に出た。
「も、もしもし」
「私が電話したらすぐに出ろ!!!」
王様かよ。
「すみません」
「まぁよい。推薦通った。春から私もそこの大学に行くから」
「お、おめでt」
「じゃ」
喋ってる途中に切られた。なんなんだあいつは。




