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言い訳は後に自分を苦しめる

え、魔性の女?

秋野から話を聞いた時、俺は真っ先にそう思った。いやでも確かにFPSや鬼ごっこゲームはめちゃくちゃに上手かった。あれは対人スキルの『駆け引き』が為せる業だ。秋野がそもそもその駆け引きがべらぼうに上手かったら?人を手玉にとるのが最高に上手かったら?俺がただ秋野の掌の上で転がされているだけだったら?


ホテルに戻った俺はベッドの上でそんなことをずっと考えていた。おかげで一睡もできなかったのは言うまでもない。


翌日。事前の打ち合わせ通りに早起きをして、エントランスへと集まった一行だったが、前日の筋肉痛も相まって満足に滑ることはできなかった。まだ若い証拠だよと口々に言いながら慰めあっていたら、ふと秋野と目が合った。秋野は不敵な笑みを浮かべていたが、それがもうほんとに何を考えているか分からなくて少し戸惑った。


送迎バスを経由し、帰りの新幹線へ乗るや否や東と秋野は即刻、夢の世界へ飛び立ってしまった。疲れがどっと出たのだろう。俺も昨夜は一睡もしてなかったのでウトウトと頭を上下させながら座っていた。ちなみにだが、新幹線は彼女たちとは別車両で、俺は自由席に彼女たちは指定席の車両だ。気兼ねなく座っていられるので俺はこのままでいいが。


気が付くと、やはり眠ってしまっていたようだった。出発時に空席だった隣の席にも人の気配が。途中で誰か乗ってきたのだろう。その人の邪魔にならないように一層、窓際へ寄る。その際に、ちらっと隣を見ると、なんと春宮がそこに座っていた。


「ぅわぁっ!!」


指定席に座っていると思い込んでいたものだから、それはもう驚いた。寝ぼけていた頭も一瞬で覚醒した。でも指定席に自分の場所があるのに、なぜこちらの車両まで?そもそもそれは大丈夫なのか?


「あら、起きたの。おはよう」


俺に気付いた春宮は操作していたスマホを鞄に突っ込んで俺を見た。


「おはよう、ございます」


「二人とも寝てるから、暇で暇でこっちに来ちゃった」


「そう、なんだ」


わざわざ会いに来てくれたのか、これはなかなか嬉しいぞ。


「ねぇ、昨日の夜どこに行ってたの?」


春宮は唐突にそう言った。なぜそれを知っている?


なんとなく秋野と会っていたことを知られたくなかった俺は、


「ちょっとお風呂でのぼせちゃってさ、夜風で涼みに」


と適当にごまかすことにした。


「そうなんだ、夜風にねぇ」


春宮は訝しげだ。俺はなおも、言い訳を続ける。


「ほら、俺、夜の散歩好きじゃん?だから旅先でちょっと散歩したくなってさ」


「それは知らないけど」


訝しげな視線は冷ややかなものへと変わる。


「あー、でもそういえば」


「え?」


「秋野ちゃんも昨日の夜に出かけてたなぁ。三十分もならないぐらいだったけど、どこに行ってたのかなぁ」


春宮は横目でちらりとこちらを窺いながら続ける。


「昨日の夜にお風呂に行ったときにエントランスで見た二人は誰だったのかなぁ」


視線は『すべてまるっとお見通しだ』というものに変わる。


「秋野ちゃんと夜に会って何をしてたのかな?」


そこでようやくすべて見られていたことを悟る俺。なぜ言い訳なんてしてしまったんだ。


「・・・見てたなら声かけてくれよ」


「邪魔しちゃいけないかなって思って」


見られていたならもう何を言っても無駄だろう。俺は、秋野の三人目発言を上手いことごまかしながら簡単に説明した。と言っても、その説明をするに辺りどうしても秋野の魔性差を言わなければいけなかったが、秋野の尊厳のために上手く隠した。つまるところ、春宮に言えたのは、


「恋愛相談をされたんだ、男目線でどう思うか聞かれただけだよ」


ということだけだった。

春宮は依然、訝しげにこちらを見ていたが、これだけ詰めてもそれしか言わないことで何かを悟ったのだろう。それ以上、聞かれることはなかった。


「まぁ言いたくないことをこれ以上聞いても仕方ないし、とりあえずはそれでいいや。でも、私には隠し事はしてほしくなかったな」


後半が小声だったので俺の耳には届かなかったが、春宮は少し悲しそうな顔をしていた。


「どうしたの?」


「いや別に、なんでもない」


「そう」


「私、席に戻るね」


「う、うん」


春宮はそのまま車両を移動していった。なんだったんだろう。


新幹線が到着するまではまだ一時間以上ある。俺はこの一泊の中で全く見ていなかったSNSを開いた。スクロールし、タイムラインを遡る。その中で、ふと西連寺夢子の投稿が目に留まった。それはなんの変哲もないただの雪山の画像だった。奥には何か建物が見えるが、その文字は見えない。投稿文には『友達と旅行に行ってます』という文字。その投稿が最後で、それ以上の何かを見つけることはできなかったが、なぜかこの雪山から目を離せなかった。


これは、既視感?まぁでもこんな雪山なんてどこにでもある。地元では夜中に走る除雪車がよく道路脇に積み上げていたものだ。あんな、どこにでもある、なんの変哲も、ない。


ここで「あぁ、西連寺夢子は雪国に住んでいるんだろうな。大変だよな雪が多いと。分かる分かる」と簡単に納得してしまえば、どんなに楽だっただろうか。俺はなぜか無性に気になってその画像を何度も何度も拡大して目をこらした。ようやく確認できたその文字は漢字四文字だと分かる。鞄から手帳を取り出して、そのよく分からない文字を書き出してみた。書いたら何か分かるような気がして。


書き出した文字を遠目から見てみたり、薄目で見てみたり、色々と試行錯誤しながらその文字とにらめっこをする。全然関係ないが、いわゆる特定班と呼ばれる彼らも似たようなことをしているのだろうか。


はっと、頭に電撃のような閃きがあった。一文字目はこれごちゃごちゃしててよく分からないが、獣編だ。獣編がつく文字だ。三文字目はこの中で一番簡単な『代』という文字。二文字目と四文字目は文字がつぶれてしまい、よく分からない。


なんてことだ。この文字はついさっき見たじゃないか。

さっきまで俺らがいた、あの場所の地名は、


猪苗代だ。

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