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隣に誰か座ると緊張する

そして来るはこの地、東北は福島県。

起伏の大きな山地が占めており、夏は蒸し暑く冬は大量の雪が降る。国内第三位の面積を持つ、猪苗代湖は以前、ブラックバス釣りにハマっていた時にスモールマウスバス(一般的なブラックバスはラージマウスと言われており、それよりも口が小さく引きもラージマウスの同サイズより強い)目当てで来たことがある。冬に来たのは初めてなんだけど・・・


「雪、すごくない?」


新幹線とJRを乗り継ぎ、猪苗代駅へ到着。ここから無料のシャトルバスが運行されているらしい。バスが来るまでの間、駅構内から外に出てみたのだが、そこはもう一面が白銀の世界だった。


「雪だー!!!」


子どものようにはしゃいで駆け出していく東。それに続く秋野。やれやれ、というふうに保護者面をする俺。雪なんて見慣れているし、この間実家に帰った時も腐るほど見たのだ。もう見飽きたぐらいである。


「さむーい」


後ろから春宮も出てきた。寒いのは嫌いという春宮を東が強引に連れてきたわけだが、なんとなく雪を見て楽しそうだった。その横顔がまた可愛いんだ。


「それにしても残念だったわね。坂口君も赤坂君も来れないなんて」


「そう、だね」


女の子三人と男の俺一人の一泊旅行なんてコミュ障の精神がもつはずなどない。当然、唯一の友人である彼らも誘ったわけだが・・・


「ごめん、その日は彼女とデートなんだ!」


末永く爆発しろ坂口。


「俺はまだ実家にいます。お土産楽しみにしててね」


おい自分のアイデンティティを見失うな赤坂。


そんなわけで行けない理由を探したものの見つからず、俺はこうしてハーレム状態のまま、一泊旅行へと繰り出されていたのだった。


「んべしっ」


そこまでの回想を終えた所で顔面に白いものが。俺の顔に当たる衝撃で粉々になったそれは、程なく正面でこちらを向いて立っている東からの雪玉だと分かった。


「俺が回想してる時ぐらい静かにしろよ!!!」


「きゃー!!!」


逃げ回る東、追いかける俺、それを見て笑う秋野。


程なく背中にも衝撃があり、振り返ると春宮が続く雪玉を準備していた。

おい春宮、お前もか。


「ごめん、楽しそうだったから」


見つかった春宮はしかし手を休ませることなく、俺にさらに雪玉を放った。それを目視で避けながらもさらに後方から投げられた雪玉に当たる。急いで振り返ると東がいた。


「こっちだよー」


「もー!!!」


なにこれ楽しい。もうこのままここで遊んでたい。


と、いいように遊ばれながらもこの状況を楽しんでいた俺は駅のロータリーを徐行しながらこちらへ向かってくるバスを見つけた。


「お、あれじゃないか。バスって」


そう、これから行くホテルは猪苗代駅からホテルまでの無料送迎バスを運行してくれているのだ。金欠の学生には非常にありがたい。


「やばいやばい、急がないと」


荷物をとりにきた東と秋野を待ち、一緒にバスへ乗り込む。車内は暖房がほどよく効いており、暑すぎず、寒いこともない。厚着をしている人が多いだろうからそのために調整されているんだろう。ありがたいことだ。


「私ここー!雫ちゃん一緒にすわろー!」


バスは中央の通行路を二人掛けのソファが挟むタイプのものだ。当然、二人ずつに分かれるのだが、これは春宮の隣に座れという事か・・・?


「じゃあ私はこっちで」


東たちの席の反対側に座る春宮。流れで行けばその隣に座るべきなのだが、ちょっと気恥ずかしさを感じ、少し離れた所に一人で座ることにした。ら、


「ちょっと藤宮、他にもお客さんがいるかもしれないんだからそうやって一人で座ってないでこっちに来なさいよ」


「え、いいの?」


「いいもなにも、人の迷惑になるんだから仕方ないでしょ」


本人からそう言われてしまうなら仕方ない。俺はすごすごと春宮の隣に座った。一応、間隔は大目にとる。ふと、いい匂いがした。その匂いの元は春宮だった。先ほど、駅で隣にいたときは風があったこともあり、気付かなかったが何か香水のようなものをつけているのかもしれない。自然で、春宮らしい良い匂いだった。


春宮はしきりに車窓をカメラに収めている。よかった、楽しそうだ。


バスは山間部へ向かう。波乱しかなさそうな一泊旅行の幕開けが迫っていた。

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