鬼ごっこをしていた小学生の時が一番輝いてた
冬休みも残り数日。
俺は秋野から届いたゲームへの招待状を前に考えあぐねていた。
また豹変したらどうしよう。正直言って怖いぞ。
意を決して開けたそれは、先日秋野が鬼教官になったあのFPSゲームではなく1対4の鬼ごっこゲームだった。このゲームは知っている。持ってはいないが、夢子の実況で見たことがある。マップ上に点在している発電機を鬼から逃げながら五台通電させ、ゲートを開き脱出するというものだ。
わざわざ購入するのもなぁ。
招待状には秋野からのメッセージが同封されていた。
『藤宮さん、あけましておめでとうございます。今年もたくさんゲームしましょうね!ところで、このゲーム知ってますか?近々、またユメユメが参加型配信をするみたいで次も入れるかどうかは分かりませんが、そのために練習できたらなと思い、誘ってみました。ご返信お待ちしています』
実家では生放送を見る余裕もなかったからそんな情報知らなかった。でもそのゲームは持ってないから俺には関係ないだろう。その旨を秋野へ返信する。
数分と経たずに秋野からの返信。
『あー、そうなんですね。それは残念です。あ、でもそうですね。これをお送りします。できそうですかね?』
主語が全く無い。しかし、そのメッセージには写真ファイルが添付されていた。開けてみると、なんとそのゲームのダウンロードコードが。
ダウンロードコードとは。知らない方に説明しておこう。昨今、ゲームソフトには二種類のバージョンがある。店頭で売られているゲームソフト本体、開けるとディスクなりメモリなどといったものが入っているいつものパッケージ版と呼ばれるもの、そしてもう一つがダウンロード版だ。公式ストアに飛んでクレジットカードなりプリペイドカードなりで料金を支払い、データ上のゲーム本編をダウンロードするというものだ。そしてこのダウンロードコードというのはすでに決済済みで残すはダウンロードのみということ。つまりは秋野がゲームを買ってくれたという事実。
『え、そんな悪いよ!わざわざそんなお金払ってもらっちゃって!』
『いえいえ、私はもうこのゲームを持っていますし、それにゲームにはお金をかけることを厭わないというのが私の信条ですし。藤宮さんとゲームしたいですし!』
その返答にちょっとドキッとしながら、続きを読む。
『唯一のゲーム友達ですし!!!』
ですよね。
ちょっとばかり浅はかな気持ちが生まれようとした自分に右フックを打ち込み、秋野に返信する。
『それならありがたく貰っておくよ。今度何かお返しするね』
そしてゲームのダウンロードを開始した。
その間にボイスチャットを繋ぐ。接続音。秋野が応対したようだ。
「あ、こんばんは」
「こんばんは。改めて、今年もよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
「それで藤宮さんはこのゲーム知ってますか?」
「実況で見たことはあるよ。鬼から逃げるチェイス?というのが大事らしいね」
「そですそです。それとマップ上に板というのがあってそれを倒すと鬼の妨害ができます。あと窓枠というのもあり、それを飛び越えることで鬼との距離を遠ざけることができます。基本的に鬼の方が足が速いのですが、窓枠を乗り越えるのが少し鬼の方が遅いんですよ。あ、一番大事なのが鬼に見つからないように立ち回ることです。私たちはまだ初心者なのでステルスを第一としましょう」
「なるほど。ちなみにわざと鬼に見つかるようにして鬼を引き付けるような行動は?よく実況で見るけど」
「あれはチェイスが上手い上級者がやるものです。私たちが見よう見まねでやったところで成功するわけがありません。すぐに釣られて退場がオチでしょう」
「そうなんだ」
「実況見てたってことは基本的なルールも知っているんですよね」
「うん、そこは大丈夫。二回連続で殴られるとダウンでそこからフックに連れていかれると一回、合わせて三回釣られたらダメなんだよね」
「そうですね。時間経過によっては二回になってしまう可能性がありますが。まぁそれはおいおい」
「秋野さんはもう上級者なの?」
「いえいえ全然そんなことないですよ。ユメユメのために始めたようなゲームですし、まだそこまでプレイもしてないです」
ほっと胸を撫でおろした。よかった、初心者であれば今回は怒られるようなことはないだろう。
「あ、ダウンロードが終わったみたいだ。始めようか」
「分かりました。今回もよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
よし、足を引っ張らないように頑張ろう。協力していこう。
「っしゃあおらぁ!ばかがぁ!」
結果から言うならば生存者側全員脱出のパーフェクトゲームだった。内容を事細かに言うならば、秋野がチェイスを請け負い、その間に他三人が発電機を修理、画面が見えないから分からないが、秋野はチェイスが最高に上手かったようで、秋野を捉えきれない鬼が、諦めて別の生存者をターゲットにするも、釣る寸前で当てるのが難しいとされているアイテム、懐中電灯を使用し鬼の目を曇らせ、その間に生存者は逃走、そういうフォローまでも行うそのプレイスタイルはまさに上級者のそれだった。期待を裏切らないなぁ。
「えへへ、やっぱりこのゲームはチェイスが一番楽しい」
そしてそのギャップにまた俺は心打たれるわけだった。




