地雷を踏みぬく勇気はない
俺は正月三が日を終えて自分の愛する家に帰ってきていた。
あの美冬の『同じ大学へ行く』という真意を確かめようにもあのあと足早に帰ってしまうし、どうにかタイミングを計って話しかけようにものらりくらりとかわされる。そんなわけでろくに話すこともできないまま、あっという間に時間は過ぎてしまった。
まぁちょっとした気の迷いだろう、と思うことにした。からかわれたんだ、きっと。忌み嫌うやつと同じ大学へ行くなんてありえないもんな。
荷ほどきも終え、優雅にホットコーヒーを煽っていると窓を叩く音がした。急だったので体が飛び跳ねるぐらいびっくりして咄嗟にそちらを向くとひょっこりと春宮がこちらを覗いていた。片手を上げて「よっ」と窓越しに聞こえる。
やばい完全に寝巻だけど、どうしよう。でもここでわざわざ着替えるとあからさまに意識しているとバレてしまうだろうか。というか不自然すぎる。このまま出た方が自然体だ、きっと。いやでも春宮の前に出るならいくらか小綺麗な格好をした方がよいのではないだろうか。ようするに見栄を張りたいんだ俺は。普段からちゃんと小綺麗にしてますよ、意識してますよ、そう言いたいんだ。幻滅されたくないんだ。いや寒空の下、待たせる方が幻滅されるのでは?
その間、わずか二秒の思考。悩みに悩んだ俺は待たせる方が悪いと思い、そのまま出ることにした。
「お、おはよう、いやこんにちはかな?」
「もうこんばんはに近いけどね」
時刻は17時になろうとしている。陽もすでに暮れている。
「あ、あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
二人で深々とお辞儀をした。
「実家はどうだった?」
「寒かった、雪もすごかった」
「東北だっけ。雪すごそうだもんね」
「そうそう、久しぶりにかまくらを作ってさ」
最近は春宮は何かと話題を振ってくれるようになった。コミュ障としてはありがたい。
「春宮は実家に帰ったの?」
「私は、実家に帰れないから」
「そ、そうなんだ」
地雷を踏んだ音がした。
会話はそこでぷつりと切れた。やばいやばいやばい、もしかしたら触れてはいけない話題だったのかもしれない。ここで話題を急に変えるなんて芸当、コミュ障には持ち合わせていない。どうしよう、どうすればいいんだ。
沈黙が走る。
それを破ったのは、
「藤宮さーん!あけましておめでとうございまーすっ!!」
勢いよく部屋から飛び出してきた東その人だった。
「お、おおう、東いたのか」
「いたのか、とは失礼な!私、地元がこっちなので里帰りしてないんですよ。挨拶はしましたけど」
視線が俺から春宮へ移る。
「あ!春宮さんもいらっしゃったんですね、あけましておめでとうございます」
「おめでとう、今年もよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
意外だった。この二人、仲が良いのか。そういえば食堂の時も春宮を連れてきたのは東だったっけ。
「春宮さん、課題進んでますか?」
「いやそんなに、というか全く手をつけてないかな」
「そうなんですね!私もです!」
今さらだが、東は一学年下だ。内容は違えど、同じように課題はある。
そこからは俺は空気だった。会話にも入れず、ただ二人の会話を聞いているだけだった。この美しいを体現している春宮と可愛い要素を詰めに詰めた東の間にコミュ障という存在は不釣り合いにも程があった。このまま消えてもバレないのでは。
「あ、私、そろそろ夕飯の準備しなくちゃ。またね、藤宮、東さん」
「はい、また!」
そう言って春宮は自分の部屋へ戻った。
残されるは俺と東。
「もしかして、出るタイミング見計らってた?」
「さて、どうでしょう」
東はいたずらっ子のように舌を出してごまかすのだった。




